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みすかーと公式SS
「レッツゴー!みすかーと」

これはMIS.W52代アドベントカレンダー13日目、12月13日分の記事です。
細かいことを気にしないで読んでください。
13000文字を超えているので、疲れたら休憩をはさんでね。


早稲田大学最大のデジタル創作サークル、MIS.W。みんなが自由に楽しくものを作るそんなサークルで、新たな歴史の扉が開かれようとしていた…

「完成だ!」

第1章 完成!みすかーと1号

学生達が完成を祝って歓声を上げる。
無機質な銀色のキャンパスで、三人は紺碧色に輝く車体のカートを囲んでいた。

べる「名付けてみすかーと1号!」

焔の企画長 べる
突然突拍子もないこと言い出すみすかーとグランプリの発起人。人の長所を見つけるのがうまい。

えんしん「頑張った甲斐があったな」

3DCGマスター えんしん
カートのモデリング担当兼べるのツッコミ役。たまに本人も変なことを言い出す。

ueta「俺達の汗と涙とエナジードリンクの結晶だ」

Unity世界の革命児 ueta
カートのエンジン制御プログラムを書き上げた。よく対立するべるとえんしんのまとめ役兼ツッコミ役。

べる「せっかくカートを作ったわけだし、レースでも開催しないか?」
えんしん「早速突拍子もないことを言うな!?」
べる「突拍子もないもんか、もうレースの一年間のスケジュールもカートの規格もネット上の参加登録フォームも作ったぞ」
えんしん「早いな!!」
べる「名付けて、みすかーとグランプリ!」
ueta「カートの名前と同じだが…」
次々に自分の計画を話すべる。

えんしん「開催する場所は?」
べる「もう考えてあるぞ、MIS.Wの文字をコースレイアウトに組み込んだMIS.Wサー…」
ブルー「シバゾノサーキット!」
べる「!?」

紺碧のゲームプランナー 宮澤ブルー
机上の空論メーカー兼カートデザイナー。お調子者。カートの制御プログラムなどデジタル的なことはさっぱりわかっていない。

えんしん「お前どこから出てきた?」
ブルー「芝園から。俺の地元の芝園公園を開催地にするのはどうだろう?」
えんしん「なるほど。サーキットとして使えれば文句なしだな」
ueta「公園でカーレースをするのか…」
べる「コース案も考えておいたのに…」

第2章 集え!新たなレーサー達

俺達の手でカーレースを!
それぞれの思いを胸に企画に向き合う企画員達。
そしてその夜、MIS.Wのサークル活動では…

べる「というわけで、教室の後ろで出場登録を受け付けてるのでみんなみすかーとグランプリに来たれ!」
ブルー「そして #MISカート最高 でツイートしろ!」
大々的にレースの宣伝を始めるべる達。それを見ていた女の子が三名。
みすちゃん「みすかーとグランプリ、か…」

プロ研の美少女 みすちゃん
青い髪をなびかせるMIS.Wの人気者。あまりカーレースには興味がないようだが…

美彩「面白そうなことしてますねー」

CG研のお嬢様 美彩(出演:緑みすちゃん)
真面目でおしとやかなメガネっ娘。CG研だが実は絵が下手。

赤音「カーレースか…面白そうじゃねぇか!べる!開催はいつなんだ!」

MIDI研の姉御 赤音(出演:赤みすちゃん)
男らしい口調の熱血少女。勝負事が好き。

べる「次の土曜日だよ」
待ってましたとばかりに答えるべる。
ueta「ってことは、今日は金曜日だから…」
ブルー「明日だな」
えんしん・ueta「早いな!!」
そんなグダグダでも赤音はやる気を見せる。
赤音「面白いじゃねぇか…勝負と聞くと血が騒ぐぜ!俺も出てやるよ!」
ブルー「俺も出走するぜ!レースで会おう」
赤音「ああ!優勝は俺だけどな!」

そんな彼らを眺め、呆れているのはみすちゃんと美彩。
みすちゃん「赤音ちゃん、凄いやる気…」
美彩「他に誰が出るかはわかりませんが、あのやる気を前に参戦するのははばかられますね…」
みすちゃん「出場はネットでも登録できるんでしょ?」
美彩「ええ、今パソコンでネット上の出場登録フォームを見ているのですが…」

思い出したようにブルーが声を上げる。
ブルー「ところで、他のカートはどう用意するんだよ?」
べる「えっ」
一瞬の静寂。
えんしん「カートの規格があるんだろ?」
べる「最初に作ったみすかーと1号と同じだが…」
えんしん「じゃあ、同じカートを作れるのは…」
ueta「俺達だけだな…」

そして彼らは死の進軍-デスマーチ-を覚悟したのだった。

第3章 激突!みすかーとグランプリ

翌日 レース当日!
えんしん「(展開が)早いな!!」
彼らがいるのは埼玉県川口市に存在する(大嘘)シバゾノサーキット。長いストレートと直角の右コーナーを四つ揃えるシンプルなコースレイアウトのレース場だ。彼らはホームストレート横にあるコントロールタワー(と言っても仮設のテントを組んだだけの本部)でレースの準備をしていた。その隣、レースで使用されるカート置き場となるパドックには8台のみすかーとカートが並ぶ。紺碧色のもの、純白のもの、漆黒のもの…その色は様々だ。

さうざん「昨日まで1台だったのに、いつの間に8台もカートを作ったんだ?」

お笑い研モノマネ班長 さうざん
みすかーと企画員ではないのにブルーと仲がいいだけで出された。辛いものが苦手。

目の下にクマを作ったべるが話し出す。
べる「昨日の活動後、みんなでYoshiの家に集まって…」
ueta「一晩でブルーがカートデザインを描き上げ、えんしんがカートのモデルを作って3Dプリンターで印刷し、俺がエンジンの制御プログラムを組んでべるが車検を通した」
Yoshi「夜遅くまでうちで何かやってたな」
さうざん「よく一晩でやったな。あと車検はちゃんと通してるんだな」

ふとべるは気づいた。
べる「ところでブルーはどうした?」
ueta「さっきまでいたはずだが」
えんしん「ブルーなら昨晩のデスマーチで体調崩して、しをん病院に搬送されたよ」
べる・ueta「はぁ!?」
えんしん「まあ治療費は大学に請求できるから心配ねえよ」
べる「そういう問題じゃねぇ!!」
ueta「みすかーと1号のドライバーはブルーだろ!? 誰が1号に乗るんだ!!!
えんしん「あ」

というところに現れた二人組。赤音とみすちゃんだ。
赤音「やっほー、お前ら!来てやったぜ!」
みすちゃん「どうもー」
べる「赤音ちゃんにみすちゃん!?」
ueta「そういえば、みすちゃんはこのレースに出場登録してないのでは」
べる「そうだ!みすちゃん、頼まれてくれるかい?」
みすちゃん「えっ?」

第4章 スタート!みすちゃんドライブ

かのう「みすかーとグランプリ第一レース、いよいよスタートです。全車スターティンググリッドへ!」

孤高のゲームプログラマー かのう
ゲーム「みすかーと」のUIを作ったのにストーリーに上手く組み込めなかったせいでレースの解説者にされた。

放送が響く中、サーキットには観客達がちらちらと集まり、にわかに活気づき始めた。そしてレース出場者達はカートに乗り込み、パドックからスタートライン前のグリッドまで移動する。そんな中に若干不安気なドライバーが一名。
かのう「ドライバー達の紹介だ!みすかーと1号!みすちゃん!」
みすちゃん「何で私がカートに…」

赤音「仕方ないだろ、ドライバーが病欠なんだから…言い出しっぺのべる達のチームがリタイアするわけにはいかないじゃんか!お互い頑張ろうぜ?」
赤音が声をかけた。自信満々な彼女ではあったが、みすちゃんに話しかけるその顔は若干申し訳なさそうだ。連れてきたみすちゃんが巻き込まれてしまったことに対してだろうか。
みすちゃん「う、うん…」
赤音 (だが悪いなみすちゃん、俺には勝てないだろうけどな…)
…どうやら申し訳なさそうにしていた理由は違ったようだ。

赤音「…それはさておき」
美彩「?」

かのう「みすかーと2号!美彩ちゃん!」
意外な出場者に、彼女を知るMIS.Wメンバー達は驚きのようだ。
赤音「美彩も出場登録してたなんてな」
みすちゃん「知らなかったよ…」
美彩「えへへ、一度こういうのやってみたかったから…」
無邪気に笑う美彩。いつも物静かで冷静な美彩をこんなレースの場に連れてきて大丈夫なのか…?と思うみすちゃんと赤音であった。

かのう「みすかーと3号、赤音ちゃん!以下モブキャラ達です」
えんしん「モブキャラ言うな」

いよいよスタートだ。ドライバーや観客席を含めた会場にいる全員が今か今かとその瞬間を待ち望み、シバゾノサーキットは一層活気づく。
かのう「カウント始めるぞ!」
待ってましたとばかりにアクセルペダルを踏み込み、エンジンを空吹かす赤音。
恐る恐るハンドルに手をかける美彩。
そしてガチガチに緊張して固まっているみすちゃん。
今、スタートの時―

かのう「5!」ueta「ごぼう」
かのう「4!」えんしん「ヨーカドー」
かのう「3!」べる「さうざん」
かのう「2!」Takowasabi「ニカラグア」
かのう「1!」一同「いかのおすし!!」

みすちゃん・美彩・赤音「!!!」

「ゴー!」
ブロロロロロ…←エンジン音

かのう「さあ各車一斉に飛び出して行きました!トップに出るのは誰だ!?」
甲高いエンジン音が鳴り響き、8台のカートが加速していく。とりあえずちゃんと動いて良かった…とべるが思ったのは内緒だ。

赤音「優勝は俺だぜ!!」
美彩「赤音さんだけにいい格好はさせませんよ!!」
みすちゃん「ちょっと二人共待ってよ!?」
ブォォォォ…

かのう「レースは第1コーナーを曲がりました。先頭集団のモブキャラ5台がもつれあっている中、みすかーと1号、2号、3号の3台が一足遅れて追っている展開ですねー」
えんしん「モブキャラ言うな」

みすちゃん「あ、あれ?」
美彩「思うようにスピードが伸びませんね…」
赤音「壊れてるんじゃねえのか?こいつ!」
なぜか置いていかれる3人。意外とモブキャラ達は速いらしい。

不意にみすかーと1号に取り付けられたスピーカーから声がした。
べる《みすちゃん、聞こえるか!?》
みすちゃん「無線だ…」
声の主はべる。コントロールタワーからみすちゃんに指示を出すナビゲーターを務めているのだ。

べる《コックピットにゲージがひとつあるはずだ!Vボタンを押すと、そのゲージが十分に溜まっているときだけブーストが使える。それを利用しろ!》
みすちゃん「なるほど…OK!ブースト始動!」
恐る恐るコンソールにあるVボタンを押してみる。
ビューーーン!!

という擬音がピッタリな加速。周りの景色が線になって後ろへ流れ、遅れた3人の中からみすちゃんが一人抜きん出る。
みすちゃん「は、早い!これなら行ける!」

面白くないのは置いていかれた2人。
美彩「何て早さなの…!?」
赤音「クソッ、みすちゃんのやつ一人抜け駆けしやがって!」

ふとみすかーと3号のスピーカーからもナビゲーションが。
???《慌てるな、赤音ちゃん。今こそみすかーと3号のあの機能を使うときじゃないか?》
赤音「なるほどな…ちょっと気が早いが、奥の手を使わせてもらうぜ!」

かのう「みすちゃん駆るみすかーと1号、一気に先頭集団に突っ込んで行ったー!」
ueta「上位陣ともなれば走りもブーストの使い方もうまいからな…スピードを落とさないブーストの使い方と、バトルの展開をひっくり返すアイテムの使い方が勝利の鍵になる」
べる「みすちゃん、ブーストのエネルギーはコース上の黄色いパネルを踏むことで自動的に補給されるぞ。それからコース上のUSBは拾ってる?」
無線を通じて的確なアドバイスを送る。べるの指示はナビゲーションに向いているらしい。

みすちゃん《えっ、USB?そういえばコースにたくさん落ちてるね。踏みたくないから避けてるけど…》
べる「いや避けてどうすんねん。USBをカートのポートに挿せばレース中に使えるアイテムがインストールされるぞ。それで差を広げるんだ!」
みすちゃん《そうか、よーし!》
肝心なことがわかってないじゃないか…とべるがレースを中継しているモニターに目をやると、片手の華麗なハンドルさばきでみすちゃんは腕を伸ばし、落ちているUSBを拾っていた。

みすちゃん《これをポートに挿すと…CDが出てきたよ!》
べる「それは投げてライバル達にぶつけると爆発して妨害できるCDだ!」
みすちゃん《ええ、そんな乱暴な…!》

<ドーーーン!!!

唐突に聞こえた大きな音にコントロールタワーの一同は驚き、その驚きは無線からみすちゃんにも伝わってきた。
えんしん《爆発音!?》
べる《は、派手にやってるじゃん…》
みすちゃん「私じゃないよ、何今の音!?」
会場が一瞬どよめきに包まれる。そして次の瞬間―

美彩「キャー!!!」
みすちゃん「うわっ美彩ちゃんのカートが後ろからすっ飛んできたよ!? 一体何があったの?」
美彩「赤音ちゃんが…大音量の音楽を…」
みすちゃん「ええっ!?」

第5章 轟音!起死回生のデスメタル

かのう「ああっ、赤音ちゃんが車体脇のスピーカーから発せられる衝撃波で、モブカート達を跳ね飛ばしまくっているー!!!」
アナウンスを聞いて、視線が一斉に猛然と追い上げるみすかーと3号に向いた。見ると赤音が車体脇に巨大なスピーカーをぶら下げ、大音量の音楽をかけている。
その音の大きさ故か、それとも音波の衝撃か、周りのカート達は次々と場外へ飛ばされていた。どうやら真っ直ぐ前に飛んで行った美彩は運が良かったらしい。

赤音ちゃん「オラオラどけどけ!吹き飛ばされたくなかったら道を開けな!」
モブキャラ「うわー!」
そんな赤音は目を輝かせ、殺気をみなぎらせながら先頭のみすちゃんと美彩に刻々と近づいていた。

そんな波乱の展開にコントロールタワーも大騒ぎだ。
べる「一体何なんだあれは!?」
ueta「あんな暴力的なプログラム組んでないぞ!?」
えんしん「しかも俺達のところまでうるせえ…相当高性能なスピーカーと破壊力のある音楽みたいだな…!」
そんな中、衝撃的な無線が聞こえる。

赤音《Yoshiが組み込んだこの『デスメタル』で俺の優勝も確実だな!》

べる「何だって!? Yoshiが!?」
視線は一斉に、みすかーと3号のナビゲーター席に座っていたYoshiの方に向いた。
Yoshi「…ああ、そうだ。昨日のデスマーチを終えてべる達が寝ている間にプログラムを多少いじらせてもらったよ」
えんしん「どうしてそんなことを!?」

一瞬寂しそうな表情を見せ、赤音は呟いた。
赤音「…プロ研とCG研に負けるわけにはいかなかったんだ」
みすちゃん「赤音ちゃん…そんな固い決意でこのレースに…」

Yoshiも俯き、語り始めた。
Yoshi「…どうしても赤音ちゃんに勝たせなきゃいけない理由があったんだ」
ueta「一体それは何だ?」
Yoshi「………」

Yoshi「赤音ちゃんの新曲『俺の青春ツッパリ道』が今月公開・配信予定!優勝したらそのための告知ができるからって頼まれたんだ!Yoshiはプログラムをいじれるからって…同じMIDI研として仲間の新曲発表を黙って見てられるか!?」
べる・えんしん・ueta「そんな理由かい!!!」
一瞬で明るい表情を見せ怒涛の勢いで宣伝をしたYoshiと、怒涛の勢いでツッコミを浴びせたべる達であった。

もちろん赤音も一瞬で殺気を取り戻し叫ぶ。
赤音「というわけで俺は負けるわけにはいかねえんだ!美彩、みすちゃん!永遠の友情を誓った仲間だからって容赦しないぜー!!」
みすちゃん「そんな理由か〜い!!!というかそんな永遠の友情なんか誓ったっけ〜!?」
赤音「いいから俺に優勝させろー!!!」

べる「ところで誰が告知の許可を出した?」
Yoshi「べるだ」
えんしん「おい!!!!!」

みすちゃん「ま、まずいよ…赤音ちゃんは高校時代ヤンキーで、街中を壊して回ってたんだよね…そんな赤音ちゃんが手加減をするはずがないよ!追いつかれたら確実にやられる!かくなる上は…」

―意地でも逃げ切るだけ!

決心したと共に、みすちゃんはアクセルペダルを床まで踏み込む。エンジンの甲高い咆哮がサーキットに響き渡った。
そして性格無比なステアリングでコーナーの最短ラインを取り曲がっていく。そしてコーナーの立ち上がりですかさずブースト―

赤音「はっ速い!! 面白ぇ…追いついてぶちのめしてやるぜ!」
赤音も負けてはいない。より一層デスメタルを轟かせ、ブーストで急加速。派手なドリフトでコーナーを抜ける。

本当のレースが、今始まる―

第6章 覚醒!レースの真骨頂

かのう「逃げるみすちゃん、追う赤音ちゃん…先頭で二人が攻防を繰り広げ、着実に後方の集団を突き放していくー!何て熱いバトルなんだッ!!!」
えんしん「なっ、何ちゅうパフォーマンスの走りだ…」
ueta「俺達のカートであそこまでやられるとは思わなかった」
べる「もう完全に、俺達の予想より先を行ってしまってるな…」

レースは2週目に入った。
みすちゃんと赤音はなおも激しい攻防を続けていた。

Yoshi「一体どういうことなんだ!後ちょっとの差が縮まらない…みすちゃんはデスメタルの射程圏内のギリギリ外をキープして走り続けてる…なぜなんだ!?」

みすちゃん「やったぁ、このまま赤音ちゃんに追いつかれず走り続けよう!」
最速となる走行ラインをなるべく崩さずに、充電パネルを縫うように通過していく。そして最速を維持したままコーナーに突っ込み、完璧なブレーキングで車体を傾けドリフト。そのまま車体を前に向け、ブーストで素早く立ち上がる―

みすちゃん「あれっ?レースって、楽しいかも…?」
今思えば、彼女は元々レースにはあまり乗り気ではなかった。ここに来たのも赤音の誘いだったし、レースに出たのもべるに強く頼まれたからだ。そもそもブルーが体調を崩していなければ、こんなことには…
でも今は違う。彼女のドライブテクニックは確実に上達し、そのスピードの変化は目に見えて現れていた。背中に赤音の気配をひしひしと感じ、より速いスピードで逃げていく。コースの状況を的確に読み取り、素早く反応してカートを操る…あっ、こんなところにカラーコーンが!避けなきゃ―

こんな楽しいことがあるだろうか?
みすちゃんは確実にこの状況を楽しんでいた…

そんな気持ちになったのは彼女だけではなかった。

赤音「やるな、みすちゃんよォ…フッ、もうデスメタルなんてセコいもんはおしまいだ。アイテムの力なんか借りずに、俺達のドラテクだけでとことんやろうぜ!!」

赤音自身ももう新曲の宣伝なんかどうでもよくなっていた。今のこの状況を楽しめればそれでいい!

赤音はカートから足を出し、ガツンと一発蹴りを入れスピーカーをコース上に落とした。スピーカーはみすかーと3号から外れ、ゴロゴロと転がっていく。
赤音は決めたのだ。全力で逃げるみすちゃんに、何者の力も借りず全力で追いつくと。これがレースの真骨頂!ライバルに対する最高の敬意!男同士の闘い!あっ、女だったか―

そんなバトルは呆気なく終わりを告げる。

赤音「待て、何か後ろから!!」

赤音「!!!」
\ドーン!!!!!/

第7章 恐怖!即死のペイント弾

再び聞こえた爆発音。しかもデスメタルのものとは違う、液体が飛び散る音も混ざっているような…?

唐突のことにみすちゃんは理解ができない。ただわかるのは、さっきまで背中に感じていた追ってくる赤音の気配はもうそこにはないということ…

一方、コントロールタワーでも…
べる「何が起きたんだ?」
えんしん「モニターはどうなってる?」
べる「いや、何も見えない…中継カメラに何か付着したのか?」
ueta「汚いもんじゃないだろうな…ここにある機材全部俺のだぞ…」

赤音は突然飛び散った何やらベトベトした色鮮やかな液体を被って視界を失い、MIS.W歴代企画のロゴが描かれた壁を突き破りコース外の砂に埋もれていた。

赤音「痛てぇ…やりやがったな…!」

かのう「2週目に入り第1コーナーを抜けた辺りで唐突に赤音ちゃんが壁を突き破りコースアウト!」
???「俺の企画のロゴが!」
かのう「どうやら何かの爆発で進路妨害を受けたようですが…」
コントロールタワーのモニターには別カメラの映像が映し出された。

そこには、美彩駆るみすかーと2号…
その純白だったはずのボディは、七色の絵の具がベタベタと飛び散っている。
彼女の瞳は輝きを失い、淡々と先頭のみすちゃんを追っていた。

えんしん「まさか、さっきの攻撃は美彩ちゃんが!?」
ueta「あんなの実装した記憶ないぞ…」
べる「Yoshi!今度は何をしやがった!」
Yoshi「俺じゃない、俺がやったのはデスメタルだけ…」
えんしん「ってことは、あのアイテムは…美彩ちゃん自身が作ったのか!?」

美彩「私だって、みすちゃんや赤音さんと同じように…このサークルで活躍したかっただけ…」
みすちゃん「美彩ちゃん…?」
抑揚のない声で美彩は呟く。

美彩「みすちゃんは可愛くてみんなの人気者…赤音さんも人当たりが良くて誰とでも仲良くしてる…それに比べて引っ込み思案の私は、いつも影の存在で…」
みすちゃん「そうか…そういえば私や赤音ちゃんが他の人と話してるときも、美彩ちゃんはいつも一人で…」
美彩「それに私は別段絵が上手いわけでもないし…」

ueta (美彩ちゃんの絵、見たことないんだが?)
えんしん (申し訳ないけど一言で言うと小学校低学年女子の方がマシって感じ)

美彩「だからもう、どうでもいい!もうこんな日々耐えられない!私の絵筆と絵の具を使ったペイント弾で、このレースに勝つことでしか私の気持ちは晴れないの!」

べる「だからって、あの危険なペイント弾をまたぶつけるつもりか!? 赤音ちゃんは何とかコースアウトだけで済んだが、怪我をしてもおかしくないんだぞ!?」

みすちゃん「それに美彩ちゃんは今まで絵を描くのが好きで続けてきたんでしょ!? それを武器に使うなんて!!」
美彩「知ったことか!みすちゃん、あなたに私の気持ちなんてわからないよ!!」

ueta「さ、さては美彩ちゃん…」
べる・えんしん・Yoshi「?」

ueta「ハンドルを握ると人が変わるタイプの人だったのかー!!!」
べる・えんしん・Yoshi「そんなツッコミかーい!」

みすちゃん「待ってよ美彩ちゃん、うわっ!」
叫ぶみすちゃんの声は届かず、後方の美彩のカートから飛んできたペイント弾が、みすちゃんのみすかーと1号のすぐ真横で炸裂する。
みすちゃん「あんなに離れてるのに、ここまで射程圏内なんて…あの絵の具を浴びたら確実に赤音ちゃんと同じ状況に…飛び散った絵の具を踏んでも、このタイヤじゃすぐグリップを失ってクラッシュしちゃうよ!」

みすちゃん「美彩ちゃんが壊れていくのなんてもう見てられない!何とかして美彩ちゃんを止めなきゃ…」

思った以上の深刻さに、コントロールタワーも混乱を極めている。
かのう「シリアス過ぎて実況ができん…」
えんしん「そうかな?ブルーが書く文章なんて終始ギャグ的な雰囲気に包まれてると思うけど」
べる「おいメタ発言」
ueta「…うかうかしていられねえ!べる、マイクを貸せ!」
べる「えっ!? お、おう…元々uetaの機材だけどな…」
ueta「聞こえるか!? みすちゃん!!」

第8章 一瞬!超速のプログラミング

みすちゃん「う、うん…ちょっとでも気を抜いたらすぐにペイント弾の餌食だよ…」
後ろからのペイント弾の爆撃を避けながら、やっとのことでみすちゃんは無線に応答する。
ueta《このままじゃみすちゃん(と俺の機材)が危ない!申し訳ないけど、美彩ちゃんをレースから離脱させるしか…》
みすちゃん「うん、私もそう思ってたよ…あんなの美彩ちゃんじゃない…美彩ちゃんを元に戻すことが私に出来るなら!」
ueta《それなら話が早い…みすちゃん、今から俺の言うコードをコンソールのキーボードに打ち込んでくれ》
みすちゃん「うん…わかったよ!でもちょっと待って…」

なおも止まないペイント弾の雨。みすちゃんは背中に感じる気配から、美彩がすぐ後ろまで来ていることを察していた。今コードなんか打ち込んでスピードが落ちたら一巻の終わりだ。そろそろ最終コーナー…!

みすちゃん「今だ、ブースト!」

その行動にべる達は驚く。
べる「何っ、ブーストをコーナーの突っ込みで…!?」
えんしん「そんな速さで曲がれるはずが…!」

みすちゃん駆るみすかーと1号は大きく加速。また景色が線になって流れ、美彩のカートがスッと後ろに離れていく。

みすちゃん「今だueta!早くコードを!」
ueta《おう!コードは…!》

無線を通じてコードが伝えられ、そのコードは間違いなく入力された。
その瞬間ブーストが切れ、カートは失速。

みすちゃん「今だ!!行っけぇ…!!!」

この失速でカートの荷重が前方に移動した。すかさずみすちゃんはステアリングを切り、カートは右前方に大きく向きを変える。しかし荷重が乗っていないリアはグリップを失ってそのまま直進し、カートは大きなドリフトモーションへ。
コーナーの中程まで進み、みすちゃんは思い切りアクセルペダルを床まで踏みつけた。エンジンは咆哮を上げ、滑っていたリアタイヤはグリップを取り戻し、再び路面を捉えストレートに向かって加速していく。残っていたエネルギーですかさずブーストを掛け、カートは正面を向き猛加速。
これだけの操作を、ほんの一瞬で―

べる「…恐ろしいな。初めてのレースで、ここまで成長してしまうなんて」
えんしん「ああ。カートを作った俺達も驚きだよ」

次の瞬間、みすかーと1号のボンネットが開き、みすちゃんの眼前に突然パソコンが現れた。

みすちゃん「な、何これ…!?」
ueta《開発者ツールだ》
みすちゃん・べる・えんしん「な、何だってー!!!!!」

べる「そんなもん出してどうする!」
ueta「慌てるな。みすちゃんはプロ研の優秀なプログラマーだぜ?きっとこの状況を打破できる」
べる「そ、そうか…?」

走りながらもみすちゃんは、表示されたみすかーと1号の制御プログラムを理解していた。
みすちゃん「ふむふむ、なるほど…」
ueta《みすかーと1号にはいざと言う時のため、他のカートのプログラムを書き換える機能を搭載してある。それを使って、美彩ちゃんを…!》
みすちゃん「…わかった。やってみるよ!」
みすちゃんは高速でタイピングを始めた。豹変してしまった美彩を救うために―

最終章 完結!波乱のゴール

プログラムの書き換えに取り掛かったみすちゃんであったが、さすがにカートの高速走行との両立は簡単ではない。一瞬にしてスピードが落ちる。
もうホームストレート…ゴールラインはすぐそこだ。
美彩「スピードが落ちたな…終わりだ!みすちゃん!」
獲物を捉え、再び美彩はペイント弾を打ち込もうと絵筆を掲げた。そしてブーストを発動し、一気にみすちゃんに追いつく―

その瞬間、周りの風景が唐突にノイズに包まれた。耳障りなモスキート音と共に…
美彩「一体何だ!?」
思わず美彩は目を背ける。

えんしん「こ、これは…!」
ueta「通信電波が飛び交ってる…みすちゃん、どうやらみすかーと2号のメインコンピュータに侵入できたようだな」
べる「ってことは、uetaの作戦は成功したのか!?」

ueta「みすかーと1号にだけなせる技、ハッキング…!」

ようやくモスキート音が止み、視界も通常に戻ったようだ。再び手元を見た美彩は驚愕する。
美彩「な、何だこれ…!?」
美彩が持っていたペイント弾を射出する絵筆は消失していた。

ueta「ハッキングはそのカートのドライバーが所持していたアイテムを消失させることができる。代わりにみすかーと1号には、アイテムがUSBなしでインストールされる…!」

同時に、みすかーと1号にはどこかで見た巨大なスピーカーが乗っかっていた。
みすちゃん「なななな何だこれ!?」

未だコース外で砂にまみれている赤音がそれを見て笑う。
赤音「ありゃ俺のデスメタルじゃねえか…上等だみすちゃん、それで美彩を吹っ飛ばせ!あの根性を叩き直してやれ!」

みすちゃん「うわぁ、うるせぇ!」
再び大音量の音楽がみすかーと1号から流れ始めた。
美彩はブーストの効果が持続したまま、衝撃波を発し続けているみすちゃんに突っ込んでいく。
美彩「まさか、こんな終わり方をするなんて…!」

またまた巨大な爆発音。
2台のカートはゴールすることなく、その爆発に巻き込まれコース外に吹っ飛んで行ったのだ。
第一回みすかーとグランプリは、こうして終わりを告げた。

べる「無事か!みすちゃん!」
土煙が収まると、コントロールタワーにいたべる達が、吹っ飛ばされているみすちゃんに向かって駆け寄ってきた。
みすちゃん「な、何とかね…」
えんしん「うっひゃー、こりゃひどい…」
爆風でみすちゃんの髪はぐしゃぐしゃになり、顔や服は泥とオイルまみれだった。一緒に吹き飛ばされたみすかーと1号も、タイヤやウィングが外れ、泥だらけになっている。
べる「今救護班が来るからな!」
みすちゃん「うん…でも今は、私より美彩ちゃんを…」
みすちゃんが指さす方にあったのは、同じように無残に吹き飛ばされた美彩の姿だった。

赤音「おい、しっかりしろ美彩!」
砂から脱出した赤音が抱きかかえている美彩はぐったりした様子だった。みすかーと2号は1号以上に損傷が激しく、デスメタルの衝撃の大きさを物語っている。

美彩「う、うーん…」
赤音「気がついたか?」

美彩「みすちゃん、赤音さん、ごめんなさい…私は…」
赤音「いいんだよ、気にすんなって。友達だろ?」
みすちゃん「美彩ちゃんが無事で良かったよ…」

ueta「終わってしまったか…」
えんしん「凄いバトルだったな…」
べる「誰だ?こんな素晴らしいカートを作ったのは?」
ueta「? 俺達だが…」
べる「…えーと、聞き方を変えるぞ。誰だ?こんな素晴らしいレースを企画したのは?」
えんしん「宮澤ブルー!」
ueta「シバゾノサーキットはいい舞台だった」
べる「違うだろッ!」

えんしん「しかし凄かったな、デスメタルにペイント弾」
べる「それにハッキングもな」
ueta「アイテムに組み込んでおくか…」
べる「次のレースのためにもな!」
えんしん「ということは?」

べる「またやるぞ、みすかーとグランプリ!」
えんしん・ueta「うおー!!」

みすちゃん「でも私と美彩ちゃんがゴールできなかったから、結局このレースは誰もゴールできなかったんだね…」
赤音「いや、そんなことないぜ。あれ見てみな」

かのう「優勝は実は後ろから走っていたモブキャラの一人、黄色みすちゃんに決定だ!」
黄色「やったあ!」
みすちゃん・美彩「」

ももっく「ブルーのやつめ、俺を出し忘れやがったな…仕方ない!オチに辛いもの研としてさうざんに激辛ラーメンを食わせるしか…!」
さうざん「おいやめろ」

Takowasabi「波乱を極めた第一回みすかーとグランプリ、これにて一件落着!」
みすちゃん「めでたしめでたし!」
えんしん「なあたこわさ」
Takowasabi「?」
えんしん「いつからいた?」

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という夢を見たんだ…

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べる「ハッ!!!」

べる「夢か…」

べる「もう朝だ…」

べる「よし、レースゲームの企画を立てよう」

こうして、伝説が始まった―

Fin.


いかがだったでしょうか。

52代のtakowasabiです。
みすちゃんやみすかーと企画員が活躍するストーリー、登場した方もそうでない方もお楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけたと思います。長いけどね。
ブルーが最初に書いた文章は回りくどかったので、ヤンデレSSでおなじみの僕が大幅な再編を行いました。結果、レース前に登場予定だったIΔEAが消失してしまったのが唯一の問題点でしょうか。
今回は52代の方々だけの登場ですが、もう全員を巻き込んだ完全版を出したいですね。挿絵はブルーが回復したら徐々に追加していきます。

明日は今回のSSでいい味を出していたYoshiのターンです。最後に話したとき、まだ何も書いてないと言ってたけど大丈夫でしょうか。

続編