# 何らかの短編3
この記事は、[みす51代 Advent Calendar 2020](https://adventar.org/calendars/4956) の14日目の記事です。
この先は業の深い地獄なので、覚悟のある方はどうぞ読み進めていってください。
興味のある方ぜひ、一昨年と昨年のアドカレで出した何らかの短編1と2もお読みください。
- [何らかの短編](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/BkY_oXIeE?type=view)
- [何らかの短編2](https://hackmd.io/@QpcN7W4fSV-r6efweOCxpQ/SJgIKWNhH)
zuzuさんによる次の記事も読むと深みが増すかもしれません。
- [51代受肉勢の独断と偏見による関係性](https://hackmd.io/s/S1FUIqfxN)
注釈:ここから先は別位相の話であり、実在する人物、団体とはそんなに関係ありません。HackMDはスペースがうまく効かないので行の頭に空白がないのは許してね。
## 別に特別でもない日
私は学生で、彼女は社会人。
だからだろうか。こんなにも――
=== ===
最初は初めて続きで、どんなことでも新鮮だった。部屋選びは何ヶ月も時間かけたし、家具についてもレイアウトを考えつつ二人であちこち選んでまわった。
私はともかく彼女は比較的装飾の少ないデザインのものが好きなので、かわいいものを探すというよりは「機能的でオシャレ!」な雰囲気の家具を探し回った。
同棲前は「これ良くない?」なんて見つけた家具のリンクを送り合って、電話越しにウィンドウショッピングを楽しんだ。
同棲後は、休日に新宿や池袋あたりまで出て家具選び兼デートを楽しんだ。
実家を出て初めての生活は不安だらけだったけれど、それ以上に楽しいことが多くてあっという間に時間が過ぎていった。
都内に二人で借りた部屋は少し手狭ではあった。今のところ生活費はほとんど彼女に稼いでもらっている状態だから仕方がない。
私も大学の授業補助の仕事でバイト代を稼いでいるが、それでも二人分の生活を支えるとなると若干心もとない。だから、大きな部屋は借りずに、普段使えるお金を増やそうと話し合いで決めたのだ。
ちょっといい暮らしをちょっと狭い部屋で、それが私達の生活スタイルに合っていた。彼女に言わせれば「クオリティ・オブ・ライフ研究の成果だ」ということである。
美味しいごはんを食べて、ときおり欲しい物を買って、ゆったりとすごす。
そんな同棲生活になると思っていたし、しばらくは思ったとおりの、いや思っていた以上の幸せな生活が続いていた。
もちろんときにはトラブルもあったけれど、それはすぐに解決した。なにせ私たちはかなり相性が良いのだ。良い……はずなのだ。
=== ===
年末は忙しい。師走が訪れてから、彼女は仕事の都合で遅くまで家をあけることが増えていた。
新卒一年目でこれだけ仕事を任せてもらえているのは、彼女に対する会社からの信頼の証だし良いことなのだろう、とは思う。
「行ってくる」
いつものけだるそうな声をさらに数段階疲れさせたような声を出して、彼女は家を出ようとした。目の下のくまは深く、顔全体に暗い影を落としている。
彼女は緩慢な動作で靴を履き、気持ち程度に身なりを整え、小さなため息とともに家のドアを開ける。
私の行ってらっしゃいの一言に反応はなかった。
忙しさの代償は、当たり前だが彼女の心身に出た。私といるときはいつもどおりにしようとしてくれているようだが、不器用な彼女のことだからすぐにわかってしまう。
そうでなくとも、私は彼女の平坦な口調の裏側、あまり動かない表情筋の向こう側にある些細な感情をも読み取れる自信があるのだ。そんな私に隠し通せるわけがないだろう。
いつにない疲れを見せる彼女がとても心配で、けれでも私は何も言えずにいた。
だって仕方ないだろう。私は学生で、いくらか稼いでいるとは言えほとんど彼女に養ってもらっている状態だ。そんな私が、彼女の仕事について口なんて出せるわけがないのだ。
私と彼女はいま対等ではなくて、それがどうしようもなく悲しくて、慰める言葉すらも口に出せないでいた。
あるいは、どうしようもないというのは単なる言い訳なのだろう。私が学生をやめて働けば少しは楽になったかもしれないし、もっと彼女と話し合うこと自体できたかもしれない。
けれども怖かったのだ。
彼女が仕事に誇りを持っていたら、私が行動を起こすことが彼女の誇りに水を差してしまうのではないかと。
私が変わることで、何かが決定的に壊れてしまうのではないかと。
=== ===
彼女は大学時代、クリスマス女子会という名目で仲が良い友人たちと毎年クリスマスに集まって遊んでいた。そのメンツは毎年同じで、私が入る隙はなかった。
そんな彼女に私はよくヤキモチを焼いたものだったが、今年はそんな気持ちにもなれなかった。
むしろ、友人と集まることで仕事で疲れた気持ちが晴れるならそれが良いと、自分自身に言い聞かせていた。
今日は久しぶりに彼女が早く帰ってきた。そんな日だったから、一緒にご飯を食べられる嬉しさで心が緩んでしまったのだろう。
「ねえ、クリスマス女子会ってどうなったの?」
言ってしまった。私の中の黒い部分が漏れ出てしまった。はっと思ったときにはもう遅く、彼女はキョトンとした目で私を見ていた。彼女はすぐに質問の意味に思い至ったのか、特に食事をする手を止めることなく言った。
「ああ、中止になった」
事も無げにそう告げた彼女に対して、私は言葉を続けられなかった。
そんな私の様子を知ってか知らずか、彼女は理由を教えてくれた。
「今年はみんな予定が合わなくて。だから代わりに来年になったら新年会をやろうってことになったんだ」
「どうして? 仕事?」
「まあ私ともう一人は社会人だけど、ほかはみんな学生だから仕事というよりは……」
彼女は私の方をチラリと見て視線を下げたあと、こころなしか頬を赤く染めて言った。
「恋人と過ごしたいからって」
彼女は何も言えない私を見て、なぜだか焦りだした。そしてまるで言い訳を募るかのように少し早口で続けた。
「いや、あの、最近忙しくてすごく疲れてたし、たまにはゆっくり過ごしたいなって思って」
私が彼女に引け目を感じていることは間違いなくて、今も別にそれが減ったわけではなくて、でも温かい気持ちになったことは本当で、彼女を愛しいと思った感情に嘘はつけなくて。
「え、ごめん泣いてる、なんで。私、またなんかやっちゃった?」
「ううん。最近寂しかったから」
「え、そういうタマだっけお前。え、あ、ごめんちょっとえっとそれは酷い言い方だな。ごめんえっと、仕事忙しくて最近早く帰れなくてごめん」
焦っている彼女が可愛くて、そんな彼女を見つけられるのはこの世に私だけなんだなと思うと幸せな気持ちが溢れてきて。
「そうじゃなくて、私が悪い」
「えっと、わかった、ちゃんと話そ。ごめん」
「私こそ、突然泣いちゃってごめん」
ちゃんと話し合おうって思った。
何が寂しくて、何に引け目を感じていて、どうしたくて、どうしてほしかったか。
喧嘩したいわけじゃないけど、喧嘩みたいなこともしよう。
「仕事と私、どっちが大事なの?」なんて言ってみよう。そして「私はあなたが一番大事」ときちんと伝えよう。
伝わらなかったらいっぱい言葉にしよう。なんだか今日はいい日だ。クリスマス・イブのイブのイブのイブ。イベントがあるわけでも記念日ってわけでもないなんでもない日。だけど私にとって、今日が今年で一番特別な日になるかもしれない。
クリスマスがそんなに好きではなかったし、何でそんなに特別な日扱いするんだろうと思っていた。でも、こんなきっかけになるなら別に良いかなって思えた。
「じゃあ冷める前にご飯食べよ」
「あ、ああ、うん。えっと本当に大丈夫?」
「大丈夫」
突然泣き出したくせに、今度は突然笑顔になった私に困惑している様子の彼女を横目に、私は味噌汁に手をつけた。美味しい。ちょうど良い塩加減だ。さすが私、よくできている。
彼女の好きな味になるように作ったはずだが、気づけば私もこの味を好きになっていたらしい。
この味がいいねと私が知ったから、今日は味噌汁記念日、なんて。どこかの詩でそんな感じの作品があったななんて思いながら、私はポカポカとする身体に味噌汁を流し込んだ。
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