# 社会心理学 ## 授業の目的 - 社会心理学における様々な専門用語を学ぶ - 社会心理学的なものの見方を身につける - 科学的ではない心理学を見分ける術を学ぶ - 批判的思考を身につける - 簡単に騙されない - メディアを通じて得た社会心理学の知識を適切に活用する ### 教訓 - 一見して正しそうなことがいかに怪しいか - 論理に基づいて仮説を立て,データを集めることが重要 - 人は一度思い込んだら考えを変えることが難しい - 自分の心の仕組み,何を考えて生活しているかを完全に知ることはできない ## 社会心理学とは何か ### ポップ心理学 - テレビや雑誌などでよく目にする心理学 - わずかな情報から非常に大袈裟な結論 - その時々のムードや気分を勘案しない - いい加減に考えだされている - 数多くのデータをもとに作られたテストではない ### 学術的な心理学 - 個人ではなく全体的な傾向を知る - 大量のデータを統計的に分析 - 多くの人に共通する傾向を知る - 「おもしろい」かどうかは重要でない - 主なトピック - 人はどうやって物事をみるのか - 社会の中でどうやって人は行動するか - 偏見はどのように生まれるか - などなど - 内省はあてにならない - 自分が何を考えているのか,なぜ考えたかを突き詰めて考える - 馬のハンスの例 - 数学のできる賢い馬,ハンス - 3+3=?と聞く - 6回 蹄を叩く - 実はハンスは周りの雰囲気を察するのが得意であった - 出題者が回答を知らない状況で問題を出したところ,ハンスは蹄を鳴り止ませられなかった - これでは馬に知能があるとは言えない - 科学的に証明することが大切 #### 科学であるためには ##### 仮説 - 実験・調査をする前に整合性のある理論に基づいて **仮説** をたてる ##### 方法 - 主張していることが正しいかどうか客観的にデータを集める ##### 結果 - 集めたデータが自分の主張にあるかどうかを確かめる ##### 考察 - 結果に基づいて理論(仮説)を再度検証し,理論の修正を行う ## 自己 ### 心の理論 - 「他人の心を推測する」という心の機能 #### 誤信念課題 - 「心の理論」の獲得を判定する実験課題 - 代表的な例:サリーとアン課題 1. サリーは、ビー玉をバスケットの中に入れて、部屋を出て行きました。 2. アンは、サリーが部屋にいない間に、ビー玉をバスケットから箱に移し替えました。 3. サリーは、部屋に戻ってきました。 4. サリーは、ビー玉を手に取るために、どこを探すでしょう? - 心の理論を獲得している子供は「バスケットの中を探す」と答える(正答) - 心の理論を獲得していない子供は「箱の中を探すと」と答える(誤答) - この問題を解くには,他人は自分と違う誤った信念(誤信念)を持つことを理解できる必要がある - 幼い子供は誤答し,成長につれて正答するようになる - このことから,心の理論は発達過程で獲得することがわかる ### 自己概念 - 抽象化された自分についての知識 - 私は旅好きだ - 「私は旅行にいったことがある」という具体的なエピソードから抽象化されている #### 自己概念の発達 - 人はいつから「自分」を認識し始めるのか - 言葉を操ることのできない幼児の **自己概念** をいかにして調べるか - 鏡のテスト ##### 鏡のテスト - 鏡に映った自分を「自分」だと認識できるか - 鼻に赤い染料をつけて鏡を見させる - 鏡を見た後に自分の鼻をこするだろうか - 実験結果 - 生後3ヶ月まで 全く反応しない(視力が弱い) - 生後4ヶ月   見ることはできるが鏡の仕組み(反射)を理解していない - 生後10ヶ月   反射がわかる.鏡の像を見て後ろのおもちゃをとる - 生後18ヶ月   自分の鼻をこする.自分だとわかる ### 自尊心(セルフエスティーム) - 自己に対する評価感情 - 自分自身を基本的に価値あるものと感じる - 自己価値,自己尊重 とも訳される - 自尊心が高い個人の方が - 収入,社会的地位が高い - 前向きで積極的 - 幸福である - 必ずしも自尊心が高いと良いとは言えない - 他者に攻撃的になる場合がある #### 自己評価に関わる動機付け - 自己査定動機 - 自己確証動機 - 自己高揚動機 - 自己改善動機 ### 自己高揚動機 - 自己に関する肯定的なフィードバックを得ようとするもの - 否定的経験に触発される自己防衛衝動 - 自己についての肯定的感情を得ようとする動因 #### 自己的な原因帰属 - 成功は当人の内面的または個人的要因に帰属 - 失敗は制御不能な状況的要因に帰属 - 失敗したら「運が悪かった」 #### セルフ・ハンディキャッピング - 自らハンディキャップを課すことで,失敗した際に言い訳ができるようにし,自尊心を守る - 成功した際にはハンディキャップがあったのに成功したと自己評価をより高められる - これらの行動に能力の向上や生産的価値はない - 失敗した時の言い訳を事前に準備しておく - 万全ならできたはずだけど,昨日徹夜してしまったから… #### 栄光浴 - 高い価値を持つ人や集団と自分の間の結びつきを他人に積極的に示す - 虎の威を借る狐 ##### 自己評価維持理論 - 自分に(心理的に)近しい人間が成功を収めた時 - 自身にとって重要な領域であれば **嫉妬** - 自身にとって重要な領域でなければ **栄光浴** #### 下向きの社会的比較 - 自分よりも能力の低い他者、自分よりも不幸な他者と比較することで自己評価を上げる - 自尊感情の低い人にとって気分を高揚させる効果がある自己防衛的な過程 - もっと悪い例を探してくる ### 自己概念の形成と知覚 #### 鏡映的自己 - 鏡を見ているのと同様に,人は他者の心の中に自分がどのように映っているかを言動などから感じ取る - それによって誇り,卑下などの自己感情を感じる - これが自己概念や自尊心の基礎となる - クーリー(1902) #### 自己知覚理論 - こう言う **こと** をすれば自分は怒る,こう言う **こと** をすれば喜ぶ,といったことを知覚している - 人は自分の内的状態を直接観察することはできない - 内的状態:態度,感情,動機など - 自分の行動,それによって起こった状況を観察することによって自分の内的状態を観測する - ベム(1972) ### 自己提示 - 意識的,無意識的に,見せる自分をコントロールしている #### 自己提示の目的 - 報酬の獲得と損失の回避 - 自尊心の維持と高揚 - アイデンティティの確立 #### 自己提示の種類 - **取り入れ** - 好感を持ってもらいたい - 追従者,卑屈 - **自己宣伝** - 能力があると思ってもらいたい - 自惚れ,不誠実 - **示範** - 価値ある,立派な人だと思ってもらいたい - 偽善者 - **威嚇** - 危険なやつだと思ってもらいたい - うるさい,無能 - **哀願** - かわいそう,不幸だと思ってもらいたい - 怠け者,要求がましい #### ジョハリの窓 - 相手との関連性に応じて円滑にコミュニケーションを行うために自己開示の程度を変更することを示すモデル ![Johari_window](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/7/79/Johari_window.png) ## 社会的認知 #### 対人認知と自動性 - 統制的な情報処理過程 - 自動的な情報処理過程 - 自覚性の欠如 - 意図性の欠如 - 効率的 - 統制困難 - プライミングの影響を受ける - 閾下(認識外)での情報提示が意味づけの活性化を行う - **自発的特性推論** - 行動から特性を推論する - 性格語から記憶の再生を促進する ### ステレオタイプ - 社会的カテゴリーに基づく対人理解 - 日本語では紋切り型 - ある特定の集団のメンバーがその集団に属しているという理由で,ある特定の性質(性格)を持つだろうと考えること - 認識の処理というのは実に複雑で処理に時間がかかる.コストもかかる - 自動処理する事で省力化 - 脳が判断する際に余裕がある時と無い時がある.この余裕を **認知資源** という - 単純な計算であったとしても、ライオンに追いかけられている時にはできない #### ステレオタイプ的判断 - ステレオタイプだけに頼って個別の人間の性格・性質を判断してしまうこと - 多くの場合ステレオタイプは役にたつ - 対人認知を自動化し **認知資源** を節約する - 瞬時に相手のことを理解することができる - 自己高揚バイアス - 自己に対する評価が脅威にさらされた時に利用される - おばさんは図々しいなどと行ったステレオタイプを持つことで,おばさんでない自分を図々しくない存在だと認知することができる - ステレオタイプ的判断が相手の性格を見誤らせたり,相手を傷つけたりすることもある ##### [確証バイアス](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A2%BA%E8%A8%BC%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9) - 元々の仮説に合致した情報しか集めない - 仮説に反する情報はみない - 例:[4枚カード問題](https://sojin.kyoto-math.jp/wason.html) #### 確証バイアスはなぜ起こるか - トップダウン的な情報処理による - 人間の情報処理の大きな特徴 - スキーマを使った自動的で大きな努力のいらない処理 - 自動的処理 - 情報をスキーマに合わせる - 合わなかった情報はいらない #### 代表性ヒューリスティック - 特定のカテゴリーに典型的と思われる事項の確率を過大に評価しやすい意思決定プロセス - 本当の確立を無視してしまう - 判断の誤りを誘う - 性格に関する先入観 - 偏見や差別 - 例:学校に行くと窓ガラスが全て割られていた.犯人は誰? 1. 高校生 2. 暴走族のヤンキー男子高生 - どちらの方があり得る(生起確率は高い)? - 直感的に2と判断してしまいそう.しかし,1の方が2よりも範囲が広く確率は高い - この直感的勘違いが代表性ヒューリスティック ## 性格 ### パーソナリティ - 人格,性格,気質,知能 - 人の行動の背後にあってそれぞれの個人に特徴的,一貫して継続的な性質のまとまり - 遺伝的要因と環境的要因からなる - 人間の行動は個性・特性(パーソナリティ)と状況によって決まる - 行動=パーソナリティ×状況 - 普段社交的な人も,緊張する場では大人しく - パーソナリティ=遺伝的要因×環境要因 - 科学的な測定を行うための条件 - **信頼性** - その手法で同じ人を測定したらいつでも同じ結果が得られる - **妥当性** - その手法で測定された性質は本当にその人の行動を予測する #### 心理学におけるパーソナリティの取り扱いの変遷 ##### 類型論 - 人々をある行動のパターンに基づいてある類型に似ているかを判断する - 例:クレッチマーの体格気質類型論 - 体型を三つに分類することで気質が分類できると考えた - 長所 - 直感的,具体的でわかりやすい - 短所 - どれかの類型に100%当てはまる人は稀 - より詳細なパーソナリティの記述が難しい - 人々を類型に分類した後で画一化した見方を取ってしまう危険がある - ステレオタイプ化,先入観と偏見 ##### 特性論 - 人々は色々な状況において個人に一貫してみられる行動傾向や特性をもつと考える - 例:キャッテルの16FP - 因子分析によって人間の傾向を示す45000語を統計的に分析 - 16のパターンを抽出した - 長所 - 統計的手法に基づいているため様々な特徴を客観的に能率よく測定可能 - 短所 - あげられた特性が個人のパーソナリティすべてを記述しているのかは不明 - 示された人格からその個人の全体像や独自性を直感的に把握することは困難 - パーソナリティへのアプローチとして現在主流 - 性格をいくつかの特性(次元)でとらえる - 内向的 ー 外交的, 安定 ー 不安定 - それぞれの特性にも強弱がある ##### 5因子モデル - パーソナリティを包括的に記述することを目的とする - 何次元の特性によって人間のパーソナリティを包括的に記述できるだろうか 1. 開放性 - 独創的な,臨機応変な 2. 勤勉性 - いい加減な.成り行き任せの 3. 外向性 - 話好きな.社交的 4. 協調性 - 温和な,親切な 5. 情緒不安定性 - 心配性,悩みがち #### パーソナリティの測定 - 質問紙法 - SPI性格適性検査 - FFPI - lieスケール - 真面目に質問に答えると体裁が悪いような質問を複数混ぜる - この手の問題のみを取り出し集計し,あまりにも点数が良いと嘘の回答である可能性が高い - SPIなどで,ちょっといい自分を演出するのはOK あまりにも別人格はNG - 作業検査法 - [内田クレペリン検査](http://www.kobayashihirotaka.com/entry/kraepelin) - 一定の作業を行わせることで,作業効率の安定性や誤答率をみる - 作業効率は高くなくていいから,だらっと安定的に答えた方が良い - 特定場面での限定的な性格特性のみしかわからない - こいつをとったらやばそう.くらいの判定にしかならない - 投影法 - [ロールシャッハテスト](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%8F%E3%83%BB%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88) - TAT(絵画統覚検査) - 用意された白黒の単調な絵画を提示し,それに関連する物語を考えさせる.その内容を分析・解釈してその人の人格諸特性または隠された欲求,精神的葛藤などを明らかにしようとする検査 - 解釈の基準が曖昧で,洞察的に解釈するには理論への精通と熟練が必要 ## 説得 - 社会的な影響力を定める様々な要因 - (ときには)全く意識せずに従っている6つのルール ### 返報性(Reciprocation) - Give and Take - 他の人が自分に恩恵を施したらそのお返しをしなくてはならない - 様々な文化で広く浸透している - 武器として使う - 望みもしない恩恵を施して…… - 例)コーラとくじ販売の実験,宗教団体の寄付要請,化粧品の試供品 - ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック - 一度大きな要請を断らせてから本当の要請を行う - 知覚のコントラストも働く - 値引きの交渉も同類 ### コミットメントと一貫性(Commitment and Consistency) - 一度決めたことを貫くという人間の性質 - 何か行動(コミットメント)をしてしまうと,その後一貫性のある行動をしがち - 一貫性の原理 - 馬券を買う前と後で自分の欠けた馬の勝率の見込みが変わる - 馬券を買ってしまうときっと勝つだろうと思い込む - 一貫性 - お金を出して馬券を買う→きっと勝つと思ったから買う→この馬はきっと勝つに違いない - ふとしたことで選んだもの・相手に執着してしまう - 一度投資を行うとそれを選んだ自分を維持しようとする - 恋愛,カルト - コミットメント - 投資すること - お金,時間,労力 - 意識的にも,無意識的にも何か見返りを求めている - 一貫性と対になって働く - 小さなコミットメントが強く働く例 - クーリング・オフを防ぐために客が自分で誓約書を書く - 法的には何の効力もないがクーリング・オフが劇的に減った - 認知資源を節約しようとする性質が原因 ### 社会的証明(Social Proof) - 多くの周囲の人が行なっている行為は正しいと考える - アッシュの同調実験 - **多数の無知** - 我々は環境で何が生じているのかの手がかりとして他の人の行動を観察している - しかし,その場に大勢人がいれば事実が明らかになるわけではない - 赤信号,みんなで渡れば怖くない - **模範学習** の観点から - 子供の恐怖心を取り除くには - 子供の犬嫌いをなおすには? - 小さな子供が犬と遊んでいる映像を何度も見せる - 自分に似た人の行動を自然と真似する - 子供は子供の,男性は男性の,学生は学生の影響を強くうける - ウェルテル効果 - 著名な人物の自殺報道後は自殺率が増える - 自殺だけでなく交通事故も増える - ゲーテの「若きウェルテルの悩み」を真似して若者が自殺 - 社会的証明の応用 - サクラ - 品薄感を煽る - 行列 ### 好意(Liking) - 好意を持っている人から頼まれると断りにくい - 外見のいい人は対人関係で有利になる - (光背)ハロー効果 - イケメンは性格がいい - ステレオタイプ - 裁判では - 投票行動では - 再犯率は - 訓練は効果がなく,外見が良いほど刑務所に戻らない - 魅力的であるほど援助を受けやすく説得力がある - 例外:見た目が良い方がペナルティを受けやすい場面も - 類似性 - 服装が類似していると援助を受けやすい - セールスマンは客と自分の類似性を強調する - お世辞 - 人間は称賛に弱い 1. 望ましい評価を受ける 2. 望ましくない評価を受ける 3. 両方混じった評価を受ける - 評価する人の意図や正確さに関係なく,評価が高いほど好意を持つ - **単純接触効果** で好意は大きくなる - 自分の写真では左右反転したものを好む - ネガティブなイメージに多く触れた場合は好意は減少する - シンボルの効果 - コカコーラとペプシ - 生理的反応を調べるとペプシ好きでも潜在的にコークに好意を持っている - 単純接触効果を狙ってシンボルに好意を持ってもらう - ほとんどのCMに意味はない - 条件付けの原理 - 美男美女がはしゃぎながらコーラを飲んでいる - クレジットカードの効果 - 打ち出の小槌のようなもの - カード払いになると気前が良くなる - カードで払う方がチップを弾む - マスターカードのマークが貼られてる部屋で通販カタログを見ると29%も余計にお金を使ってしまう - チャリティで寄付を求められると - 部屋にマークがあるだけで募金額が増える ### 権威(Authority) - 自分より地位や知識が高い人に対し,発言や行動が正しいと感じること - 例えば医者 ### 希少性(Scarcity) - 珍しいものや数が少ないもの,また得るための時間が限られているものに対してより多くの価値を見出す - それらを得られなかったときの後悔が大きいから - タイムセールや限定品 ## 社会的手抜き ### 社会的促進 - 作業や課題を遂行している際にそばに他者がいることで,その作業や課題の成績が高まる現象 - 他者が存在する場合 - 単純な作業 - 能率が向上 - 競輪でのリールの巻き取りの作業 トリプレット(1898)の着眼点 - 複雑な作業 - 能率が低下 - 難しい記憶課題 - 複雑な計算 - 何故他の人が存在すると仕事の能率が変わる? - **喚起水準** が高まるから - ザイアンスの理論(単純接触効果) - その場で支配的な行動傾向(すでに十分学習された内容)が強められる - なぜ他者が存在すると喚起水準が高まる? - **評価懸念** - 他者によって自分あるいは自分の成績が評価されるのではないかという不安 - 自己評価が低い,作業のスキルレベルが低い場合に起こりやすくなる - 他者が目隠しをしている条件を作ってこれをテストする - **注意の分散** - 近くに他者がいるとつい注意を向けてしまう - 他者への注意と作業への注意との葛藤が動因水準の上昇をもたらす - 人ではなく,他の方法(ライトの点滅)で注意を分散させるとどうなるか - 他者の存在は「評価懸念」と「注意の分散」を通して支配的な反応を高める - 頑張ろうと思ってるならより頑張る - 怠けようと思ってるならより怠ける ### 社会的手抜きの実証実験 #### リングルマンの実験 - 農作業を1人,2人,3人,8人で一緒に作業させる - 一緒に働く人が増えるほど一人当たりの作業量が減る - 社会的促進と矛盾して見える #### インガムらの実験 - 特別な綱引き装置を作って実験 - 一人で引くと自分でわかっている場合 - 他の人と同時に引くと思っている場合 - 能力の低下が起こった - みんながサボったから? - 大勢で綱を引くのは難しいから? - プロセスの損失が発生するから? #### ラタネ,ウィリアム,ハーキンズによる大声実験 - 実験参加者に大声を出してもらって声の大きさを測定 - 大声実験でもプロセスの損失はある(=音波の干渉) - 各参加者は小部屋に入る - 集団として叫ぶ場合には同時に叫ぶ人の人数が知らされる - この人数を偽る - 擬似集団を作る - 擬似集団にはプロセスの損失がない - 結果,プロセスの損失のせいではなく,サボりが原因だと判明 ### 社会的手抜きを防ぐには? - 人は無意識に社会的手抜きを行う - 評価懸念が重要なキー - 個々人の努力の量を評価するのが難しい時,社会的手抜きは生まれる - 個人の達成量をオープンにすることで回避 - 誰がどれだけ頑張ったかをはっきりと示す ## 同調 ### アッシュの同調実験 ![](https://www.firefly.kutc.kansai-u.ac.jp/~k905672/class/ash.png) - 単独で判断した場合,誤判断は150回に1回 - 7~9人でこの課題を行うと? - 被験者以外は全員がサクラ - 時々,サクラが全員一致して誤った判断をする - 結果 - 30%程度のケースで **同調行動** をとった - 1回でも間違えた人は80%もいた - 考察 - **斉一性** の圧力 - 自分以外の全員が同じ(誤)回答をしている - では,間違った答えをあげるサクラが全員ではない場合は? - ひとりでも正答を出していると誤答率は劇的に低下(5%までおちる) - サクラの人数は? - 被験者1人,サクラ2人以上で斉一性の圧力は発生する - サクラがマジョリティでなくてはならない ### シェリフの実験 - 仮現運動 - 実際に物理的運動はないのに運動しているかのように錯視してしまう現象 - 光点の自動運動 - 暗い部屋の中で光点をじっと見ていると,不規則に動いているように感じてしまう現象 - シェリフは被験者に光点の自動運動みせ,どれだけ動いたかを報告させた - 複数人で何度も回答をさせた場合,徐々にそれぞれの体感した移動距離が揃ってきた - 他者によって影響を受けている良い例 ### 同調行動はなぜ生じるのか - 次の二つの現実を判断する過程で行動は生じる - 物理的現実 - 物理的な環境に関する知識 - 情報的影響を受ける - 社会的現実 - 他者の反応や他者からの情報があって初めて成り立つ知識 - 社会,集団的目標の達成を目的とする - 規範的影響を受ける ### 影響の種類 - 情報的影響 - 正しい判断を行いたいという欲求による影響 - 有名なラーメン屋に行列ができる… - 規範的影響 - 他者からの欲求に応えたいという欲求による影響 - シャツをズボンに入れないとダサい ### 同調の深さ - 私的同調 - 多数者意見に本心から同調する - 公的同調 - 本心では多数者意見に同調していないのだが,表面上多数者意見に従う - 世間体を守る ### 同調の二つの型 | 実験課題 | 集団の主な効果 | 同調の深さ | | :--------: | :-----: | :---: | | シェリフの仮現運動 | 情報的影響 | 私的同調 | | アッシュの線分の長さ | 規範的影響 | 公的同調 | ### 同調しやすい人々 - 社会的関係が未熟 - 自信がない - 権威主義的である - 承認欲求が強い - 知的な影響力がない ## 集団過程 - 集団 - 共通の目標や経験,価値,規範などがある - メンバー間になんらかの相互関係がある - 地位や役割などの集団構造がある - メンバー自身がその集団への所属意識を持っている ### 集団規範 - 規範:拠るべき規範 - 集団規範 - メンバーに集団における標準的な行動の仕方(準拠枠)を提供する - 守るべき理想 - 斉一性の圧力,情報的影響,規範的影響 ### インフォーマル・グループ - 公式ではない仲間集団 - 強い規範的影響を持ちうる - 自然的に形成され,メンバー相互の好意的感情に基づいて成立している - 集団の目標や規則,役割分担などが不明瞭 - 暗黙のうちに共有された規範や目標を持つ - ホーソン実験 - 人間の動機付けに関する古典研究 - 作業場の明るさに注目 - 明るくしても暗くしても作業効率が上がった - 調査の対象となる労働グループの一員となっていること自体が効率的な作業への動機づけになった ### 集団の凝集所性 - メンバーをその集団にとどまらせようとする力 - 各メンバーがどれだけ魅力的か - メンバー同士の価値観が似ているか - メンバー間の相互作用が活発になされているか - 集団の目標が魅力的な - 集団のサイズは適当か - 良い点 - 集団に属すことに価値がある - 集団での作業に対する満足感が高い - 悪い点 - 集団に受容されたいと言う気持ちから集団の秩序結束を壊すことを避ける - 意見の対立を避けたり,他のメンバーへの批判を抑える ### 集団の意思決定 - 集団が議論の末に一つの結論を出す - 意思決定に必要なこと - 個人感による情報の交換 - 個人の持つ情報には限界がある - 互いに交換することにより知識の共有を図る - 新しい知識を作り出す - 個人で行うより良い意思決定を行う - 個人の意思決定 - 早い - 限定された知識に基づく - チェックがが効かない - 本当にそれが最適な意思決定なのかどうか判断することが難しい - 集団の意思決定 - 遅い - コストが大きい - 多様な知識に基づく - プロッキングに注目 - 集団の中で異なる意見が出しにくい - 結論に関してチェックすることが可能 ### リスキーシフト - 高給与だが不安定な職への転職には最低限どの程度の成功確率が必要になるか - ジレンマ課題 - ハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターン - 集団決定を行わせると討議前の個人の決定の平均よりもリスキーになることが多い - リスキーシフト - もともと優勢だった意見が討論の結果より極端になる現象 - 集団極性現象 - 集団決定の結果はメンバー個人が持っていた意見より極端になる - 議論後にメンバー個人の意見よりもより極端になる ### 集団思考 - 集団の病理により誤った結論が出る集団的意思決定 - ピッグス湾事件 - 1961年,合衆国CIAが指示ジして亡命キューバ人部隊がキューバに侵攻 - 全てが計画通りに進まず大失敗 - のちの分析でそもそも"計画"自体がうまくいくはずのないものであることが判明 - 集団が誤った意思決定をする原因 - 過度の楽観論 - うまくいくに違いないと言う思い込みが現実についての情報収入と分析を怠らせる - 閉鎖的な心理 - 不都合な情報を見ずにステレオタイプ的な考え方をする - 斉一性への圧力 - 集団の「良い雰囲気」を壊したくないために反論や不都合な情報の提供がなくなってしまう - 集団思考をなくすためには - リーダーの役割が重要 - 批判的な討論者としての役割を取る必要 - 反対意見や疑問点が積極的に出てくるように集団をコントロールしなくてはならない - 偏ってはいけない - 自分の好みや結論,立場や見解を最初から述べて,メンバーに押し付けててはならない ### 三人寄れば文殊の知恵 - Shawの実験 - 思考パズルを解かせる時,一人で解く場合と集団で解く場合 - 所要時間は集団の方長くかかる - 正答率は集団の方が高い - 集団のパフォーマンスは平均的な個人のパフォーマンスよりも優れている - 知識を共有できるから - 一人が問題を解ける確率をpとする - 二人ペアの両方が問題を解けない確率は(1-p)(1-p) - n人集団が解けない確率は(1-p)^n - 誰か一人でも解ける確率は - 1-(1-p)^n - Stassonら(1991)の研究 - 一人だけ正解がわかる人がいても集団が正解を出せるとは限らない - スタイナーは **プロセスの損失** と名付けた ## 服従 - 権威への服従 - スタンレーミルグラムの実験 - 記憶と学習の科学的研究という名目 - 被験者の一人が教師役 - もう一人が生徒役に - 教師役は生徒が間違ったら電気ショックを与える - 間違えるたびにショックの強さをあげる - 実験者は一貫して続行を命じる - どれだけの被験者がどこまで電撃を与え続けるか? - 実は生徒役はさくら - 1回正答するまでに概ね3回間違える - 生徒は電撃を与えられると - 最初は文句を言う - 120ボルトでは苦痛になってきたと大声で言う - 苦痛のうめき声や悲鳴が大きくなっていく - 330ボルトではここから出してくれと叫ぶ - 以後反応がなくなる - 65%の被験者が最後まで電撃を与えた - **服従行動** - 大多数の被験者がうめき,汗,神経症的な笑いなど,心理的葛藤の印を示す - 心理学実験において倫理を検討することの重要性も - 服従は人間の本質 - ジンバルドーの監獄実験 - 参加者をランダムに囚人と看守に割り当てる - できる限りリアルに囚人と看守を演じさせる - 看守は命令口調,肉体的懲罰,屈辱 - 囚人は受動的行動,無反応 - 二週間の実験の予定が,看守があまりにも攻撃的になり6日間で終了 ## 傍観者効果 ### キティ・ジェノビーズ事件 - ニューヨークの団地の真ん中で深夜,若い女性が強盗に襲われて惨殺された - 犯行は40分にも渡った - 周りのアパートの電気がついたのを見て一度は逃げ出したが,また戻ってきた - キティはその間,助けを求め続けたが助けは来なかった - 誰も警察を呼んでくれなかった - 最終的にキティは殺された - 都会の冷たさが原因なのか? - なぜたくさんの人が気づいていたのに事件を防げなかったのか - たくさんの人がいた「のに」ではなく,たくさんの人がいた「から」 - 多くの人が参加すればするほど一人一人は手抜きしてしまう - **社会的手抜き** ### ビブ・ラタネの実験 - 援助行動を実験的に研究する - 男性の被験者が記憶の実験をするといって連れて来られる - 実験者は女性 - ついたての向こうに実験器具を取りに行き,台の上に乗って転ぶ音がする - 実際にはついたての向こうにスピーカーがあってそのような音が出ているだけである - この男性は助けに行くだろうか? - 統制条件:想定する理由がない条件 - 被験者がひとりの時 - 実験条件1:想定する履中がある条件 - 本当の被験者がが二人の時 - 実験条件2 - 被験者1人+サクラ1人 - サクラは音が聞こえても助けに行かない - それぞれの被験者のとった行動は? #### 実験結果 - 統制条件 - 95%の被験者がすぐに助けに行った - 実験条件1 - 70%の被験者しか助けに行かなかった - 実験条件2 - 50%の被験者しか助けに行かなかった - 部屋の隅から煙が出てくるという実験でもほぼ同じ結果に ### 責任の分散 - キティ・ジェノビーズを殺したもの - **責任の分散** が,誰も警察を呼ばないという行動を生んだ - 目撃者は部屋の中から外を見ていたので自分は安全 - 他の部屋の明かりがつくんが見えた - キティは助けてと叫んだが,誰かを名指ししたわけではなかった - 目撃者は皆,他の誰かが当然警察に通報したものだと思い込んだ ## 社会的ジレンマ - 集団を構成する個人の最適な選択が全体にとっては最適な選択にならないこと - キセル乗車 - 受験勉強 - ゴミのポイ捨て - 共有地の悲劇 - ここでいう全体とは,同じ目的を持つ同質の集団のことを言う - ビーチでのゴミのポイ捨ての例を考える - 一人一人からするとゴミをポイ捨てすると言うのは最適な行動.大した問題にならず,楽できる - みんながそれをやると大きな問題となる - これによって困るのはビーチに行く人 - ビーチに行かない人はここでの全体としては考えない - 全員が行動を選択でき,そして全員に結果が影響するような状況でのみ成立 - 全体に被害を与える人間が限られている場合は社会的ジレンマと言えない - ある企業による公害 - 賞味期限の偽装 - 社会的調整の場合は社会的ジレンマとは言わない - 車の左側通行 - 従う事で全体に利益があるが,従わない事による利益が存在しない ### 共有地の悲劇 - 共有地と呼ばれる共有の牧草地がある - ある程度は時間あたりの回復をするが,食べ過ぎると根まで食べてしまい,永遠に回復しなくなる - それぞれの農民が自分の利益だけを考えるならば羊の数を増やした方が良い - 全員が自己中心的に羊を増やしていけば,牧草地が荒廃して使えなくなってしまう - 共有地を使う人全体の利益を考えると羊の数を制限する方が良い - 現代の例:熱帯雨林や焼畑農法 ### 公共財産型社会的ジレンマ - 望ましい目標がはっきりしているのに一人一人がその実現に向けての行動を選択しない - 共有地の悲劇 - 公園や観光地でのポイ捨て - ゴミ置場で決められた時間・形式でゴミを出さない - アパートの共有部分の利用方法 - 図書館の本を破る - 信号無視 - フロンガスを含んだスプレー缶 - 違法駐車による道路の混雑 - スパイクタイヤの利用 ### 出し抜き型社会的ジレンマ - 一人一人が他人を出し抜いてやろうとするから生じるジレンマ - チップのインフレ - 他の人より感謝されたいからちょっと多く払う - みんながそれをやると相場が上がる - 人より感謝されたいならもっと払わなくてはならなくなる - 企業による新卒者の青田刈り - 高級車 - シグナル効果 - お金を持っているアピール - 企業間の過剰な値引き競争 ### 自己防衛型社会的ジレンマ - 損をしないようにと言う自己防衛的な行動が事態を悪化させる - 第一次石油ショック - トイレットペーパーや洗剤の買いだめ - 平成の米騒動 - 予言の自己成就と呼ばれる - トイレットペーパーがなくなると言う根拠のない予言 - それを信じてみんなが買いだめに走る - 実際にトイレットペーパーがなくなる ### 群衆行動型社会的ジレンマ - 一人だけで行うのは損だが,全員で行うことにより特になる - 赤信号みんなで渡れば怖くない - スピード違反 - 参加者が増えるほど行動のコストが下がることが多い - 特があるが損もある行動 - 多数で行うことで特はそのまま,リスクを低減させる - 従わない事によって特がない行動はこれに当てはまらない ### 囚人のジレンマ - 重大な犯罪の容疑で逮捕された二人の容疑者間のジレンマ - お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になる - それでも,協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなるというジレンマ - 1回限りの場合 - 参加者は協力を選ばない - 繰り返しがある場合 - 最初は協力しないが,繰り返して行く事で協力する可能性が生まれてくる - 具体的な例 - 共同で犯罪を行ったと思われる囚人A,Bに検事は司法取引をもちかけた - もし2人とも黙秘すれば2人とも懲役2年 - 1人だけが自白したら自白したものはその場で釈放 - この場合は自白しなかった方が懲役10年 - 2人とも自白したら2人とも懲役5年 - なお彼ら2人は別室に隔離されており,相談することはできない - 囚人A,Bの行動と懲役の関係の利得表は次のようなもの | | 囚人B 協調 | 囚人B 裏切り | | :-----: | :-------: | :-------: | | 囚人A 協調 | (2年, 2年) | (10年, 0年) | | 囚人A 裏切り | (0年, 10年) | (5年, 5年) | - (裏切り, 裏切り) がナッシュ均衡となるがパレート最適は(協調, 協調)である - 囚人二人にとって,協調し合うのが最適 - しかし,囚人たちが自分の利益のみを追求するかぎり,互いに裏切り合うというジレンマ