# 対称性による保存則の導出 ## 復習と準備 ### ラグランジアン 一般座標系$\boldsymbol{q}(t)=(q_1(t),q_2(t),\cdots ,q_n(t))$における物体の運動エネルギーが$K=\frac{1}{2}m\dot{q}^2$,ポテンシャルが$U=U(q)$のとき,ラグランジアン$L$は以下のように定義される. $$L(\boldsymbol{q}(t),\dot{\boldsymbol{q}}(t))=K-U=\frac{1}{2}m\dot{\boldsymbol{q}}^2-U(\boldsymbol{q})\tag{1}$$ また,ラグランジアン$L$からオイラー・ラグランジュの方程式 $$\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{\boldsymbol{q}}}\right)-\frac{\partial L}{\partial \boldsymbol{q}}=0\tag{2}$$ が導かれ,この方程式はニュートンの運動方程式$F=ma$と等価である. ## 1.対称性 導入として,対称性と呼ばれる物理学的に重要な概念について説明する. 以下,物理学における対称性は定義は以下のように述べることができる. > ある状態$A$を持つ対象に操作$R$を加えた後の状態が$A'$になったとする.このとき$A=A'$であれば,「AはRについて対称性を持つ」という. > 出典 谷村省吾 『対称性と保存則』(取得:2021,1/26) http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/class/H28-tanimura-mechanics-5.pdf この定義を数学的に記述すると, $$R:A{\to}A',(A=A')\tag{3}$$ ### 例 例えば,直角二等辺三角形$ABC$に対して, $R$ :「角$A$が角$B$に重なるように三角形$ABC$を折り曲げる」 という操作を加える. <center> <img src="https://i.imgur.com/5VTqTcE.png" ,width=300> </center> このとき,操作Rを行った前後での三角形の形状はともに「直角二等辺三角形」である.つまり操作$R$を行った前後で,直角二等辺三角形という状態は対称性を持っているといえる. ## 2.循環座標 ここでは簡単のため,直交座標系$\boldsymbol{r}=(x,y,z)$の場合についてのラグラジンアンについて考える.まず,座標成分$x,y$に依存しないラグランジアン $$L(\boldsymbol{r},\dot{\boldsymbol{r}})=\frac{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2)-mgz\tag{4}$$ について考える. 式を眺めれば明らかであるが,式(4)のラグランジアンは$x,y$に依存しない.このようにラグランジアンがある座標成分$q_i$を含まないとき,$q_i$のことを**循環座標**とよぶ. また式(4)について,例えば$x$方向についてのオイラー・ラグランジュの方程式は, $$\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right)-\frac{\partial L}{\partial x}=0\tag{5}$$ $L$は$x$に依存しないので左辺2項は0となり,結局式(5)は $$\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right)=0\tag{6}$$ となる. ここで,式(6)が意味するところについて考えてみる. まず,$\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}$の時間微分は式(6)より$0$であった.つまり,$\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}$という物理量は観測時刻によらず一定であることがいえる. このように時刻$t$に関係なく一定の値を取るような物理量を**保存量**という. ## 3.ネーターの定理 一般座標系$\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,\cdots ,q_n)$において,ある座標成分$q_i$が循環座標であるとする.このとき,ラグランジアン$L(q,\dot{q})$は$q_i$を$\epsilon$だけ微小変化させるという操作 $q_i{\to}q_i'=q_i+\epsilon$ (無限小変換)に対して対称性を持つ. このことをより一般化した場合について考える. まず,$q_i$ $(i=1,2, \dots, n)$が循環座標であるとする. このとき,無限小変換 $$q_i{\to}q_i'=q_i+\epsilon\delta q_i\tag{7}$$ においてラグランジアンは対称性を持つ.($\delta qはtの関数$) また,式(7)より $$\dot{q_i'}=\dot{q_i}+\epsilon\frac{d}{dt}\delta q_i=\dot{q_i}+\epsilon\delta \dot{q_I}\tag{8}$$ 変換(7)によるラグランジアンの変化分$\delta L$は \begin{eqnarray} \delta L&=&L(\boldsymbol{q}+\epsilon\delta \boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}}+\epsilon\delta \dot{\boldsymbol{q}})-L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}})\\&=&\epsilon\sum^{n}_{i=1}\left(\frac{\partial L}{\partial q_i}\delta q_i+\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta \dot{q_i}\right)\tag{9} \end{eqnarray} ここで,積の微分から式(9)の$\sum$内2項目は $$\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta \dot{q_i}=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i\right)-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i\right)\tag{10}$$ となるので, $$\delta L=\epsilon\sum^{n}_{i=1}\left[\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\right)\right]\delta q_i+\epsilon\frac{d}{dt}\left(\sum^{n}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i\right)\tag{11}$$ 式(11)1項目[]内の式は式(2)オイラー・ラグランジュの方程式に等しいので$0$とすると,ラグランジアンの対称性より $$\delta L=\epsilon\frac{d}{dt}\left(\sum^{n}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i\right)=0\tag{12}$$ となる. 以上の議論より,$q_i$ $(i=1,2, \dots, n)$の無限小変換に対して,ラグランジアンが対称性を持つとき, $$\sum^{n}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i\tag{13}$$ は保存量となる.このことを**ネーターの定理**と呼ぶ ## 4.保存則の導出 ### 4.1 運動量保存則 直線上を運動する質量$m_1,m_2$の2物体について,ラグランジアンは$$L(x_1,x_2,\dot{x_1},\dot{x_2})=\frac{1}{2}m\dot{x_1}^2+\frac{1}{2}m\dot{x_2}^2\tag{14}$$ である.$x_1,x_2$は循環座標であるから,ラグランジアンは変換 \begin{eqnarray} x_1{\to}x_1+\epsilon_1\\ x_2{\to}x_2+\epsilon_2 \end{eqnarray} に対して対称性を持つ. このときの保存量は, $$\sum^{2}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{x_i}}=m\dot{x_1}+m\dot{x_2}=p_1+p_2=P(運動量)\tag{15}$$ となる.式(15)は運動量保存則の定義に他ならない. ### 4.2 角運動量保存則 2次元極座標上で回転運動する質量$m$の物体について,ラグランジアンは $$L(r,\phi,\dot{r},\dot{\phi})=\frac{1}{2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\phi^2})-U(r)\tag{16}$$ である.角度成分$\phi$は循環座標なので,ラグランジアンは変換 $$\phi{\to}\phi+\epsilon$$に対して対称性を持つ. このときの保存量は回転する物体の運動量が$p=mv=m\times r\dot{\phi}$であることを踏まえると,保存量は $$\frac{\partial L}{\partial \dot{\phi}}=mr^2\dot{\phi}=r\times p(角運動量)\tag{17}$$ となる.式(17)は角運動量保存則に他ならない. ### 4.3 力学的エネルギー保存則 一般座標系$\boldsymbol{q}(t)=(q_1(t),q_2(t),\cdots ,q_n(t))$におけるラグランジアンは $$L(\boldsymbol{q}(t),\dot{\boldsymbol{q}}(t))=\frac{1}{2}m\dot{\boldsymbol{q}}^2-U(\boldsymbol{q})\tag{18}$$ $L(\boldsymbol{q}(t),\dot{\boldsymbol{q}}(t))$が時間$t$をあらわに含まない場合,時間変化保存量 $$\sum^{n}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i-L(\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}})\tag{19}$$ が存在し,式(19)1項目については$K$を運動エネルギーとして $$\sum^{n}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i=2K\tag{20}$$ と表される. 一方,ラグランジアンは式(1)より$L=K-U$であるから,保存量は $$\sum^{n}_{i=1}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i-L(\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}})=2K-(K-U)=K+U(エネルギー)\tag{21}$$ となる.式(21)は力学的エネルギー保存則に他ならない. 式(19),(20)の導出は式がやや煩雑になるため結果だけを示した. 詳しい導出方法はこの動画で詳細に説明しているので参考にしてほしい. [熊野と学ぶ解析力学05【ネーターの定理】](https://www.youtube.com/watch?v=zXFhPDw3rPI&t=332s) ## 参考文献 [1] 谷村省吾 『対称性と保存則』(取得:2021,1/26) http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/class/H28-tanimura-mechanics-5.pdf [2] 神戸大学 『対称性と保存則』(取得:2021, 1/26) http://www.research.kobe-u.ac.jp/csi-viz/members/kageyama/lectures/H26_FY2014_latter/Analytical_Mechanics/note_141106b.pdf