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title: ブナ林の歴史と人のくらし
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## ブナ林の歴史と人のくらし
### -成り立ちとかかわりから持続的利用を展望する(中静透) -

- 1920年頃までは、日本海側多雪地に原生林と呼ばれる状態で豊富に残っていたブナ林。
- しかし現在では、その10%ほどしか残っていない。
- 1960年代には伐採のピークで年間250万㎡を伐採。
- 現在では、木材としての国産ブナの利用は少ない一方、輸入ブナ材が見られる。
- =持続的な利用とは言えない
この章では
**ブナ林の保全と持続的利用のあり方について考える。**
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### 2.1 ブナ林と人とのかかわりを探る
- 2.1 ブナ林と人とのかかわりを探る
- 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
- 2.3 ブナ林の利用の歴史
- 2.4 ブナ林の持続的利用
- 2.5 22世紀のブナ林
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###### 2.1 ブナ林と人とのかかわりを探る
### ブナ林:日本の<span class="blue">冷温帯</span>の極相林。かつて日本の中部地方の山地から東北地方の平地を広く覆っていた。
- ケッペンの気候区分:A(熱帯)、B(乾燥帯)、C(温帯)、D(亜寒帯)、E(寒帯)
<span class="red">(日本の大部分はCfa(温帯)、北海道はDf(亜寒帯))</span>
冷温帯:温帯のうち、亜寒帯に近い地帯。最寒月の最低気温が平均-3度以上、18度以下のうち、特に冷涼な気温。
<div align="center">
<table text-align="center">
<tr>
<td>日本の気候区分
</td>
<td>冷温帯の分布
</td>
</tr>
<tr>
<td>

</td>
<td>

</td></tr>
</table>
###### (出典:https://trekgeo.net/q/f/temperateC.htm)
</div>
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###### 2.1 ブナ林と人とのかかわりを探る
極相林:森林を形成していく植生の遷移過程

- 森林の構成樹種のほとんどが陰樹で構成され、以降樹種の構成が変化しない状態
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### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
Point
- 日本のブナ林(原生林)は日本海型と太平洋型の2タイプに分けられる。
- 森林を形成する要因として気温だけではなく降水量や降雪量にも関わる。
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### 日本の冷温帯はいつから成り立った?

- 最終氷期(約1万年前以前)
- 日本付近では平均7℃気温が低かった
- 現在よりも冷温帯の範囲は広かった。
- しかしこの時期、ブナが優先する森林は少なかった。
- →花粉分析
`
花粉分析:堆積層の中からそこに包含されている花粉や胞子の化石を取出し、抽出した地層年代の植物の種類を推定する。
`
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### 日本の冷温帯はいつから成り立った?

- 縄文時代前期(6000年前):現在より気温は1−2℃高かった。
- ブナ林が現在の分布状況になるのは約4000年前以降。
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### 日本の冷温帯はいつから成り立った?
↓東北地方の最終氷期以降のブナ属花粉の出現状況

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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
### では、その頃何があったか?
- 最終氷期:気温が低く、日本海は凍結。水蒸気の供給は少なかった。
- その後、温暖化により海面上昇、暖流(対馬海流)の流入により、日本列島への水蒸気の供給が盛んになる。

#### ブナの花粉が増加する時期と、降雪量の増加した時期とが一致する。
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### 太平洋側と日本海側との湿度の違い
- 季節風により、日本付近では大陸からの風が吹いている。

- 日本海を日本海を吹走する過程で、水蒸気を補給。(対馬海流の影響も)
- 脊梁山脈で水蒸気は雪となる。
- 太平洋側では乾いた風となる。
- 日本海側:冬季でも湿潤
- 太平洋側:冬季は乾燥
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### 湿潤と乾燥の歴史を示唆する重要なもの
- 黒ボク土の分布
- 火山灰を起源とする草原性の植生によって形成。
- 要因:火山、山火事
- 乾燥している地域に多く見られる

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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### 黒ボク土の分布

###### (出典:農業環境変動センター、https://soil-inventory.dc.affrc.go.jp/explain/D.html)
- 日本海側には少ない。
- 雪のおかげ
- 北海道、東北地方太平洋側、中部地方内陸部、瀬戸内海に多く発生
- これらの地域は乾燥していた
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
#### ここまでを整理すると
- 10,000年前以前は冷温帯が広がっていたが、降水量(降雪量)が少ない
- 後氷期になると、海流の影響を受けるようになる
- 日本海側の湿潤、太平洋側の乾燥が明瞭に
- この時期からブナ林が成立しだす。
<br>
<br>
#### 黒ボク土の分布からも太平洋側は乾燥していることがわかる
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だから何?
乾燥してたからって、それがブナとどんな関わりがあんの?
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
- 黒ボク土とブナ林の関係
- 現在ブナの優先度が低い地域は、数千年前からブナの少ない状態であった。
- ブナ花粉が少ない地域ではナラ類、クリ、シデ類などの落葉樹を中心とする森林であった。
- このような地域からは炭や灰が検出されている。

黒ボク土の分布する地域では、昔からブナが少ない
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
- ブナ花粉が少ない地域は黒ボク土の分布と合致し、昔から乾燥している。

- これらの地域には、ブナ林が成立できなかった(原生的なブナ林が残らなかった)。
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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
- ブナ本来の生態学特徴もその理由の一つ
- ブナ材の粘りの強さが雪の圧力に耐える
- 積雪によってブナの種子がネズミ類の捕食から逃れる

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###### 2.2 日本の冷温帯林の成り立ち
### 日本の冷温帯の原生林 ≠ ブナ林
- ブナ林の成立には、気温のほか降水量(降雪量)も重要
- ブナ林があったのは日本海側。太平用側でも標高の高い地域
- それ以外の場所では、数千年前からブナが優占する森ではなかった。
- 太平洋側の冷温帯は、ナラ類、クリ、シデ類などの森林を原生林と考えるのが良い。

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### 2.3 ブナ林の利用の歴史
## 人類はブナ林をどのように利用してきたのか
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### 伝統的なブナ林の利用
0. 江戸時代
- 薪材として都市に供給された記録がある
1. 大正時代
- 国有林で択伐や皆伐が行われるも、効率的な伐採・集材技術がない。
- 乾燥技術も未熟なため、腐朽の早い木材として評価され、利用が少ない

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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### 伝統的なブナ林の利用
2. 第二次世界大戦
- エネルギー不足から木炭需要が急増し、伐採量が増える

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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の大規模皆伐と人工林の転換
3. 第二次世界大戦後
- 一時的に伐採量は減少
4. 戦後の復興や高度経済成長のなかで、急速な伐採が始まる。
- 伐採・搬出手法の技術も進み大規模な伐採が可能となっている

### しかし、伐採した後は?
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### 国産ブナ林の減少
- ブナの木材の評価は高くなく、伐採後はスギ・ヒノキの針葉樹人工林に転換

- 国内材のみならず外国産材の輸入が、林業の衰退に拍車をかける。

→人工林についても需要が減り、手入れされなくなった・・・。
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### 国産ブナ林の減少(伐採範囲の拡大)
- 伐採全盛期当初
- 太平洋側のブナ林、日本海側の標高の低いブナ林が中心
- 積雪量も少なく、アクセスが良く手入れしやすい
- 後年
- 積雪量の多い地域も伐採
- 伐採跡地の人工林化に失敗
- 針葉樹林がうまく育たない
- 伐採後に侵入した樹木(カンバ類などの先駆種)に負ける

→結果、ブナ林の分布が減少
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の天然更新
人工林への転換を諦め、ブナの天然更新を優先する方針へ
- 皆伐母樹保残(傘伐、漸伐)
- 材積で60-70%まで伐採。
- 残りを母樹として残す
- それらの母樹が落とした種子が稚樹に育った頃に母樹を伐採

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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の天然更新
しかし、成功のケースは稀
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| -------- | -------- |
| ・多くの場合、ブナが成長する前に、ササ類や低木類が繁茂<br>・刈り払っても1、2年で回復する | |
| 母樹として残されたブナも強風で倒れやすい| |
|・ ブナの大量結実が数年に1度しか起きない<br> ・毎年一定のブナを伐採できる管理が難しい| |
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生
ブナ林が伐採される一方、スギ林ばかりが増える。

(皆伐母樹保残を行った長野県カヤノ平。ササ類や低木林が茂ってブナの更新が阻害)
## ブナの二次林は不可能なのか・・・?
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生について考えてみる
- ブナの二次林の成功例もある
- 東北地方、北陸、山陰など
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生①
八甲田山から奥入瀬渓流付近

- 明治期〜第二次世界大戦前後に成立したと思われるブナ林
- 江戸時代までは藩による管理
- 直径約50cm以下の中小径木のみに利用が制限されていた
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生②
八甲田山山麓

- 馬産地として有名
- 江戸時代〜明治時代:日清・日露戦争での軍馬の需要が高まる
- 山麓の放牧地を陸軍が接収
- 標高の高いブナ林内にまで放牧
- ササなどの林床植生を採食
- 他にも炭焼きを行った場所でのブナの更新が成功している例もある
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生③
## あがりこ
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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生③
あがりこ

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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生③
あがりこ
- 特に多雪地域で多くみられる
- 雪上に出た木の幹を伐採し、
- 伐採した後の切り株が癒合し、そこから芽吹き、成長していく
- 20〜30年に一度、萌芽枝を部分的に伐採して、株を生きたまま伐採することができる

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###### 2.3 ブナ林の利用の歴史
#### ブナ林の再生④
植林
- ササが繁茂したところでは、ブナの種子が高密度に散布されても更新が難しい。そういった地域では植林は有効な手法
ただ・・・
- 隔年結実のため、十分な苗の確保が困難
- 林業的に見合うコストを大きく上回る
- 植林してもササなどに負けることもある。
- 苗の入手困難性から、遠隔地の苗を利用すると遺伝的撹乱が起きる。
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### 2.4 ブナ林の持続的利用
では今後、どのようにブナ林を持続的に利用すべきか
- 木材としてのブナ(直接的価値、供給サービス)
- 原生林としてのブナ(間接的価値、文化的サービス)
今後の保全や持続的な利用のためには、ブナがもたらす木材供給以外の生態系サービスを認識する
- その例をいくつか挙げ、持続的なブナの利用について考える
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###### 2.4 ブナ林の持続的利用
### 白神山地

- 日本各地で伐採が進み、1980年代には原生林に近いブナ林は残り少ない中で、
- 白神山地は、アクセスの悪さ、多雪地で地滑りが起こりやすいこともあり、大規模な伐採を免れていた。
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###### 2.4 ブナ林の持続的利用
### 白神山地
- そんな白神山地に、伐採計画と広域林道の計画が起こったことで、反対運動が激化
- 秋田・青森両県の保護団体を中心に、全国レベルの保護団体も加わる

そんなおり、日本政府が世界遺産条約に加盟
1993年に屋久島とともに世界自然遺産となり、保護の対象へ。
### 果たしてこれでめでたしめでたし?
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###### 2.4 ブナ林の持続的利用 (白神山地)
### 世界遺産登録前
- 地域の人々が山菜やキノコ採りのため入山。
- マタギによる狩猟

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###### 2.4 ブナ林の持続的利用 (白神山地)
### 世界遺産登録後
「世界的にも類まれな価値を有する遺産地域の<span class="blue">自然環境</span>を人類共有の資産と位置づけ、より良い形で後世に引き継いでいく」 (白神山地の管理計画 環境省ほか 2013)
- 今までの狩猟・採集などの活動は禁止
- 利用をエコツーリズムなどの緩やかな利用に制限
- 利用できる地域も限定

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###### 2.4 ブナ林の持続的利用 (白神山地)
- 多雪地のブナ林が生態系としての完全性を保ちながら保存される。
- 登録後数年は、年間100万人以上が訪問
- しかし、現在では徐々に減ってきている。
- 世界遺産としてのグローバルな価値が保全される一方で・・・
- 地域住民との確執
- それまで国立公園等の保護地域に指定されていなかった白神山地がいきなり世界遺産に
- 地域の人たちにとっては、身近なものであり、グローバルな特殊性を実感しにくかった。
- 今でこそ、徐々に考え方が地域住民に育ってきたが十分ではない。

白神山地全体での利用の方向性が統一されていない感・・・
果たしてこれで、持続可能な利用と言えるのか・・・
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###### 2.4 ブナ林の持続的利用
### 福島県只見町

- 1980年代まで広大なブナ林の伐採が行われていた
- 周辺に尾瀬や飯豊山地などの保護地域があったためためブナ林が残っている
- 平成26年6月、UNESCOの生物圏保存地域(エコパーク)に指定
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###### 2.4 ブナ林の持続的利用
### 福島県只見町
- 只見エコパークの管理運営計画
- 「この地域の豊かな<span class="red">自然環境(雪、ブナ林)や天然資源を保護・保全</span>するとともに、それらの持続可能な地活用を通じ、<span class="red">地域の伝統、文化、産業を継承、発展させ、地域の自立と活性化を図る</span>なかで、地域の経済的な発展」を目指す
=生態系や周辺の二次的な生態系サービスの利用が強調されている。
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###### 2.4 ブナ林の持続的利用
2つの異なる保全の形
- 白神山地
- 世界遺産としての普遍的価値である「原生的な森林」の維持
- 只見
- 地域独自の文化、生活、歴史を生かした、地域づくりを目指す

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###### 2.4 ブナ林の持続的利用
#### ブナ林の持続的な直接的な利用を考える
- ブナ林の非木材林産物の利用は、生態系を大きく改変することなくブナ林を利用が可能
- 森林を厳密に保護するだけで、その価値を深く理解することは難しい
- ブナ材の価値、ブナ林の歴史を理解した上で、自給を考えるべき
- 例えば
- ブナ林の家具を使うなどで、身近にその価値を感じられる
- しかしそれも、輸入材を利用しては持続的とは言えない
- 二次林の利用と効果的な更新を含めて50年、100年先の持続的利用を考える必要がある
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### 2.5 22世紀のブナ林
これからのブナ林
- これからの100年
- ブナ林に対して新たな危機
- 現存するブナ林が少ない
- 気候変動(温暖化、降雪量の減少)により、現在のブナ林の分布域の縮小
- その場合、ブナ林の持続的利用は現在の想定とは大きく異なる可能性もある。
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###### 2.5 22世紀のブナ林
これからのブナ林の保全
- これまで
- 原生的な森林としての存在
- 固有生物の生息地としての重要性
- これから
- 今後の環境変化を踏まえた保全
- 多様な生態系サービスの利用
- 利用と保全を考える必要がある
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### まとめ
#### ブナ林の分布
- 日本海側を中心とした冷温帯、湿潤域
- 約4000年前以降に成立
<br><br>
#### ブナ林の利用
- 江戸時代から戦後間もなくまでは緩やかな利用
- 1960年代以降大規模な伐採
- 針葉樹林への転換
- 人工林の手入れ不足
- 天然更新の難しさ
<br><br>
#### ブナ林の再生
- 下草の効率的な除去
- あがりこ
- 植林
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### まとめ(自身の感想含む)
#### ブナ林の保全と利用
- 本来ブナ林の生息に適した環境での再生
- ハード面で制限するだけでなく、持続的な利用
<br><br>
#### 利用と制限
- 伐採制限
- 間接的な生態系サービスの利用
- ブナ材を身近な存在に
- あがりこの観光地化
<br><br>
#### 管理
- ササ類などの下草をうまく手入れできるような体制
- 馬をいっぱい食べる
- 計画的な伐採