# 第14回脳科学若手の会 春の研究会レポート ## 概要、参加した目的、理由 CyberneXにお邪魔させていただいている常定です。以前岡田さんから「脳のことだし、参加したら面白いかもよ」と紹介して頂いたので[脳科学者若手の会](http://brainsci.jp/)が主催する[第14回脳科学若手の会 春の研究会](http://brainsci.jp/blog/2022/03/12/spcamp14_2022_0313/)にエンジニアとして二日間参加してきました。 ## 1日目 ### 五十嵐先生による講演 五十嵐先生の講演は"嗅覚から記憶、そしてアルツハイマー病の研究へ"と"研究者として生き残る方法"でした。 最初の嗅覚と記憶に関しては研究レベルの内容だったので自分は五十嵐さんが何を言っているかまるで分からなかったが、当時五十嵐さんが所属していた森研究室でのフォーカス分野が嗅覚の最上位中枢である嗅皮質の機能の解明であり、嗅皮質の機能解析を、電気生理学やイメージング法などあの手この手と手法を変えつつ数年間研究。しかし、なかなか明確な結論が得られず、悶々とした日々が続いたそうです。 その中で、遺伝解剖学的に得られた「嗅皮質には機能的に類似の細胞が集合したパッチが存在する」という仮説は誤りなのではないかと考え、一つ一つの細胞の嗅球から嗅皮質への軸索投射を自分自身で可視化することで、嗅皮質の機能の解明研究を進めたそうです。 [*参考資料より*](https://www.jnss.org/etc?id=2014igarashi&u=5cd40e84d94c9c3e5c94519b79ea8b80) 次に"研究者として生き残る方法"のお話では五十嵐先生自信が失敗したと思う部分、成功したと思う部分を紹介してくれました。 主に - 研究内容は30−40代のうちに決めておけ - 第一に体力的に - 第二にこの年齢になると家族ができたりと、住む場所、環境、経済面的にしっかりと決まったところで無いと両立がうまくいかない。 - 良い指導者・ラボを選ぶこと(どんなに優秀な人でも入るラボを間違えると良い研究者にはなれない。) **自分にあった良いラボを見つけ、そこに入ることが自身に求められる才能** - 理想的なラボ - ボスが世界的に認知されている。 - グラントが潤沢。 - スタッフ、ポスドクがどんどん独立。 - 院生の教育がしっかりしている。 - ボスと週に1−2時間以上自分のプロジェクトを話す時間がある。 - よくないラボ - ボスのことを海外で誰も知らない、海外の学会に呼ばれない。そもそもボスが海外経験がない。 - スタッフメンバーの顔ぶれがなかなか変わらない。 - 院生の教育方針は「放任主義」 - ボスと話す機会がなかなかない。 - なるべく早く独立すること。 - 若手研究者のたどる典型的なキャリアパスの国際比較 - アメリカ、ヨーロッパの場合、ポスドクとして7年後に、 PI(Principal Investigator) として独立、約5年間のAssistant Professor(アメリカ)/Group Leader(ヨーロッパ)後にテニュアを付与され、同大学のAssociate Professorになり、さらに5年後に同大学のProfessorになる。 - 日本の場合、5年間のポスドク後に、約7年間の助教、違う大学の講師、准教授を経てPI(Principal Investigator)独立、同時にテニュアも付与される仕組みとなっている。 - このように欧米では博士獲得後、数年〜10年程度で研究室を持てるが、日本では若手と呼ばれなくなった頃に教授として研究室を持つことが多い。 - 成功してる教授の例: - UCSD 教授小宮山教授 オーシャンビューの超豪邸、年収4000万円 - Univ Texas Houston 永山教授 4LDKの豪邸、年収1280万円 - UCI 五十嵐教授本人 年収2100万円 - 数千万円〜数億円/年の研究費をもらって好き勝手に研究してるらしく、テニュアをとれば死ぬまでずっと好きな研究できるらしい。 ### 神谷先生による講演 神谷先生の講演内容は「[*実験データ解析再入門:論文を「フェイクニュース」にしないために*](https://speakerdeck.com/ykamit/shi-yan-detajie-xi-zai-ru-men-lun-wen-wo-hueikuniyusu-nisinaitameni)」でした。内容的には研究者界隈で常に問題となっている再現性の低さをどのように改善するかというものでした。事前課題の読み物に「実証的研究の事前登録の現状と実践」があり、具体的に心理学においての再現性問題にフォーカスを当てたものでした。 - プレレジ(pre-registeration *以下事前課題の読み物より引用* - 再現性の低さの対策として、プレレジ(pre-registerattion)、研究で検証する仮説,方法,解析の内容などをデータ収集の前に明確にして,第三者機関に登録するというもので、第三者の審査を必要ではなく、研究者が情報登録したことを以てプレレジ完了となる - 一旦登録されたらタイムスタンプとともに確定されるため,登録情報の修正や変更はできない。レジレポは,研究でデータを収集する前に研究背景,仮説,方法などのプロトコルを雑誌に投稿し,査読を受ける。 - 査読を通過したプロトコルは原則的採録(in-principle acceptance: IPA)となり,その後に研究を実施する。実施後,結果や考察を加えて完全な形となった論文を再び雑誌に投稿するが,研究結果は採録判定の判断材料とはされず,計画通りに研究が実施されたことなどを再度の査読で確認し,問題がなければ採録となる - TL;DR - 仮説、実験方法、環境などを事前に発表/宣言することで研究が再現性の高いことを証明できる。 なぜなら現状として実験方法などがうまくいかなくても、データのチェリーピッキングや、 データ数増加減少させることで無理やり仮説通りになったと宣言でき、あたかも再現性が高いように発表できてしまうから。 - 事前課題(Open Science Framework (OSF)のインターフェースを用いてプレレジのサンプルを作成) - プレレジに必要なデータ数、サンプルサイズの算出方法としてG-Powerという検定力分析ソフトを使用し、数字を排出。 - その数字を使って前述のOSFに研究を登録。 - 自分は研究者ではなくエンジニアなので、研究など珍紛漢紛なので事前課題に添付されていたYouTubeチュートリアルを見て概念を理解し、OSFを一通り適当に登録してスキップ。 事前課題は何故プレレジが必要なのか、今の問題、どのようにプレレジをするのか、プレレジが認められるプロセス、など、ある程度概念の部分は理解できたのですが、講演の部分は最初に概念のおさらいをした後はG-Powerの細かいパラメータの話や、テクニカルな話ばかりで全く理解できませんでした。 ## 2日目 ### グループディスカッション 2日目は前日の神谷先生が時間がなくて話しきれなかった部分の続き後にグループでに分かれて事前課題で作成したプレレジをお互いに発表しあってお互いにフィードバックし合うというものでした。 発表する中で特に自分を疑問を抱いたのは「KOマウスとCtrlマウスで、縫線核のセロトニンニューロンのうち、cfosを発現する細胞の割合 (cfos+TPH/TPH比)を測定する。ウィルコクソン順位和検定。」というプレレジの中で - Data collection procedures : 同腹仔1バッチあたり、0~2匹ずつのKOマウスとコン トロールマウスを見込む。マウスが必要数に達するまで、あらたなバッチを追加し続ける。 - Sample size : KOマウス8匹、コントロールマウス8匹を見込むが、生育や脳形態の 異常およびサンプル調整に不備のあるマウスを除外することを見込んで、各群10匹ずつ用意する - Sample size rationale : d=1.6 α=0.05 power=0.80として=G-Powerを用いて必 要サンプル数は各群8匹と計算された。 d=1.6とした根拠として、予備実験において6 匹の野生型マウ スでのTPH-cfos/TPH比の平均が0.3、標準偏差が約0.06であった ことを参考に、TPH-cfos/TPH比が0.1変化することを検出できるように計算した。 という条件のもと実験するということだったのですが、==KOマウス8匹、コントロールマウス8匹を見込むが、生育や脳形態の 異常およびサンプル調整に不備のあるマウスを除外することを見込んで、各群10匹ずつ用意する==の予備の部分がどのようにして計算されていたか疑問に思い、計算に基づいていないのか質問したところ、「経験則から"直感的に"に2匹に決めた。」とのことでした。 自分のイメージでは各研究室で長年の研究の副産物として研究室内でのマウスの生存率、寿命、奇形発生率等を統計的に保存してバラつき抑え、より効率的な実験・研究をするためにマウスが正常に成長する確率を算出しているのかと思っていました。 また、生育や脳形態の 異常およびサンプル調整に不備のあるマウスを除外する条件も特に細かく決めていない、マウスの手術中に失敗し、死亡する可能性もあるとのことでしたが、その成功・失敗率も分からない、バラバラで、研究室内では「極力失敗しない方がいいよね」程度の認識で、手術成功率のボーダーラインなどは設定してないようでした。 仮に、予備の2匹も問題なく成長し、トータル10匹全部生き延びた場合、その10匹で実験するのかと聞くと「そのつもり(8匹に達した時点でバッチの追加を中止するほうがよいかも)」だとのことでした。 こうなると、いくらプレレジで仮説、実験法などをしっかり数字を出して登録しても以下の理由から意味がないのではと思いました。 - 実験するマウスの数が8から10に増えるとN数が25%増とかなり増えるので元々の計算が意味がない。 - 9-10匹全てテストしてその中で2匹は死んでも構わないので、一通り全て実験した後に、適当な理由をつけて(他と比べて奇形、マウスが不健康、手術中に"うっかり"失敗など)データをチェリーピッキングし、2匹を実験しなかったことに出来る。 - 9-10匹テストできる場合、8匹に達した時点でバッチの追加を中止するとしても、並び替えでなんとでもなる、第三者の監督下でないと本人以外順番は分からない。 の上記3点を聞くと、「確かに、でも、まあ」といった感じでした。 当日の参加者のうち研究者でなかったのは自分だけだったので研究者たちの間では予備の数が経験則だったり、弾く条件の記載が曖昧だったりするのは当たり前の事なのかと聞くと、 - 同じ研究室で研究者Aと研究者Bが同じように育てても、何かしらのファクターが差が出る、そこまでやってるとキリがない。 - 予備のマウス数がちょうど数値化するのか雰囲気で決めるかのふわふわしたライン。 - 成功結果を出さないと進めないのでマウスの生存率などをいちいち数値化する時間、予算がない。 とのことでした。 みなさんにプレレジについて、データを"調整"する事についてどう思うか聞いたところ。 - 探索研究(仮説なし)の場合はただ結果を書けばいいので良いが、検証研究(仮説を立て、実験し、証明する)場合は抜け出せないループにハマり、時間をかけて立てた仮説が無駄になるリスクが事前に全て登録してしまっていて誤魔化しが効かないのでとても高い。 - 上記の理由から理想的ではあるが、結果が出せないと出世できない研究業界では現実的に厳しい。 - 結果が出ないと教授から「N数を増やせ」と遠回しに言われたことがある。 といった風にプレレジが研究者の間で積極的に採用されるにはなかなか難しいことが伺えました。事実、それを裏付けるかのように五十嵐先生の自身の研究、研究者としての生き方に関する講演では約90人いましたが、翌日の神谷先生のプレレジに関する講演では約50人とほぼ半分になっていました。分かってはいるけどそうは行かないという研究者たちの間にあるジレンマを垣間見た気がしました。 以上、CyberneXにソフトウェアエンジニアインターンとしてお邪魔してる常定が2日間ニューロンという単語以外全く分からない2日間に及ぶ第14回脳科学若手の会 春の研究会に参加したレポートでした。脳波に役立つ事は自身の知識不足で全く汲み取れませんでしたが、若き研究者たちが抱く将来自分のラボを持って好き勝手に研究して生活するという夢、環境が研究者たちにもたらす悲しい現実、研究者たちの視界、視点、といったものが見れて面白かったです。紹介してくれた岡田さん、レポートのはずが感想文になっても最後まで読んでくれたCyberneXのみなさん、貴重な機会をありがとうございました。
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