# オロロンのゆめ 「おはようございます! すみません!!隣座ってもいいですか!?」 無邪気で明るい、いわゆる天真爛漫な少女が話しかける。私とは対照的だ。 「ええ、どうぞ。」 「ありがとうございます!! まだこの生活に慣れてなくって、家を出るのが遅くなってしまって、、着いたら席もあんまり空いてなかったんで、助かります!!」 「そうね、私もまだ慣れてはいないわ。始まったばかりだものね。」 「はい、、実はこの春に上京して一人で暮らしているんです。。もう何もわからなくって。。」 「私もそうよ。まあ確かに最初はいろいろと大変よね。」 「そうなんです。。わたし不器用だから、洗濯してるの忘れちゃったり、ごはん食べるの忘れちゃったり。。それから、それから、、」 「それは不器用を通り越しているような気がするのだけれど。」 「そう、、ですよね、、、、」 少女は何かを考えているのか、いや何も考えていないのか、遠くを見つめながら、少し悲しそうな表情をする。と、そこに教授がやってきた。講義が始まるようだ。 「あの!! せっかくですし、授業終わったらお話し聞かせてもらえませんか!! 一人暮らしのコツみたいな!!」 「コツなんかないと思うけれど、、まあいいわ。13時までに八王子キャンパスに行かないといけないからあまり時間もないけれど。」 「はちおうじ??」 「あら、もう講義が始まるわ。静かにしましょう。」 ## 私は網走凛。北海道の端っこにある公立高校から、私立大学の医学部に進学した。私の両親は医者であり、医学部に入学するのは自然なこと、普通だと思っていた。しかし、どういうわけか、それが世間一般的ではないらしい(当然のことではあるけれど)。 週1回、私は興味のある芸術学部の講義を受講しに、西武池袋線沿いの某キャンパスに通っている。そこの学生はなんというか、自由なのである。髪型や服装といった外見だけでなく、内見というか、生き方というか、、レールの上を歩んできた(これからも歩み続けるであろう)私にとっては、隣の芝生は青く見えるだけかもしれないけれど、とても魅力的に映るのだ。 「わたしにはゆめがあるんです。。それを叶えたくて上京してきて、、」 「あら、夢があるのは素敵なことじゃない。で、どんな夢なの??」 「はい、、笑われちゃうかもしれないんですけど、、アイドルになりたいんです。。」 「アイドル?? ごめん、私には分からない世界ね。」 「そう、、ですよね。。」 「そもそも何でアイドルなんか。」 「自分の力を試したいっていったら大袈裟かもしれないんですけど、、実はわたし北海道の海沿いの小さな町の出身で。まあ、その町はどんどん人口も減っていって、、つい最近には列車も来なくなっちゃったり、、」 「わたしはそんな小さな町でとても甘やかされて育ってきました。若い子が少ないから、周りの大人たちはみんな優しいんです。君はオロロンの星だ、なんて言われたりして。」 「えっと、、奇遇ね。私も北海道の出身なのよ。オロロンってことは日本海側かしらね。私はオホーツク側だから反対のようだけど。で、それで、周りから持ち上げられて、その気になってアイドルになろうとしているってわけね。随分と甘い考えのようだけれど、アイドルってそんな簡単になれるものなのかしら?」 「簡単になれるものではない、それはわたしにもわかっています!! でも、わたしを育ててくれた地元に、なにか出来ることはないかな、、って。。ほら、有名になって、わたしの地元を取り上げてもらって、、そしたら、みんな来てくれて、、とか。。」 「その発想も随分と甘い考えのようだけれど、、」 「でもでも、ほら、最近はいろいろな方法があるじゃないですか!! ふるさとのうぜいとか、、くらうどふぁんでぃんぐとか!!」 「そうね、、まあ、なんとなく言いたいことは理解したわ。あなたは地元に貢献したいのね。でも、地元に貢献するって方法はいくつもあるわ。決してアイドルになることだけが貢献するってことじゃない。私も将来は帰って地域医療に貢献するつもりよ。それも地元への貢献よね。」 「地域医療?? 、、ですか??」 「ええ、私は医学部の学生よ。ちょっと事情があって芸術学部の講義を受けていたけれど。」 「そうなんですか!! それはすごすぎます。。ごめんなさい、わたしなんかと話しているの時間の無駄でしたか、、??」 「いろいろな人の考えを知るのはとても大切なことよ。さて、そろそろ時間だわ。そういえば、自己紹介をしていなったわね。私は網走凛よ。」 「網走さん、、いや、凛ちゃんですね!! わたしは留萌萌です。地元ではもゆもゆって呼ばれていました。ぜひもゆもゆって呼んでください!! またお話ししたいです!!」 「そうね、留萌さん。また会えるといいわね。」 「もゆもゆですよー!! 凛ちゃん!!」 「ええ、留萌さん。」 「もゆもゆ!!」 ## 「……って、こんなこともあったわよね、もゆもゆ〜〜」 「凛ちゃんまたその話してる〜〜」 「もゆもゆ〜〜」 「やめて! 離してよ忙しいんだから!!」 「あら、もうご飯作ってあげないわよ。洗濯も掃除も自分でやる??」 「それは、、困る。。」 「じゃあいいじゃない、もゆもゆ〜〜」 「……」 「そういえば、もゆもゆの出演いつだっけ??」 「えっと、火曜の19日。深夜番組だけどね笑」 「初めての地上波出演でしょ。」 「まさか北海道出身者でアイドルグループが結成されるなんて思わなかったよ。定山渓46って、ネーミングセンスがなんともいえないけど、、」 「ええ、それはまあ、そんなこともあるわよね。」 「でも、これでやっと地元に恩返しができる。。みんなありがとう、今度はわたしがみんなを元気づけるよって。」 「もゆもゆ〜〜」 「えっ、、」 「そんなことどうでもいいわ。もゆもゆ〜〜」 「うっ、、」 「もゆもゆ〜〜〜〜」 「ひっ、、、、」 「もゆ〜〜〜〜〜〜〜〜」 おわり。