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# 力学 - 第3回 -
## ポテンシャルエネルギーとエネルギー保存則
### 保存力:
質点が経路$C$に沿って$A$点から$B$点まで移動する際に力$\boldsymbol{F}$がする仕事$W$は
\begin{equation}
W =\int_{A,C}^B \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}\tag{1}
\end{equation}
で表され,これは一般に質点の運動経路によって異なる値をとった.これに関して,力$\boldsymbol{F}$
\begin{equation}
F_x = 2xy \ , \ F_y = x^2 \tag{2}
\end{equation}
で与えられ,道すじ
\begin{equation}
C_1:y = 2x \ , \ C_2: y=x^2 \tag{3}
\end{equation}
に沿って原点$O$から$P(2,4)$まで運動する場合を考える.すると,この線積分は
\begin{eqnarray}
W_1 &=& \int_{O,C_1}^{P} \left[F_xdx+F_ydy \right]\\
&=& \int_{O,C_1}^{P} \left[2xydx+x^2dy \right]\\
&=& \int_{0,C_1}^{2} \left[2xydx+x^2\frac{dy}{dx}dx \right] \\
&=& \int_{0}^{2} \left[2x\cdot 2xdx+x^2\frac{d}{dx}(2x)dx \right] \\
&=& \int_{0}^{2} 6x^2 \\
&=& 16 \\
\\
W_2 &=& \int_{O,C_2}^{P} \left[F_xdx+F_ydy \right]\\
&=& \int_{O,C_2}^{P} \left[2xydx+x^2dy \right]\\
&=& \int_{0}^{2} \left[2x\cdot x^2+x^2\left(\frac{d}{dx}x^2\right)\right]dx \\
&=& \int_{0}^2 4x^3dx \\
&=& 16
\end{eqnarray}
となり,この場合,途中経路によらず積分値は同じとなる.このように,力$\boldsymbol{F}$のする仕事が,途中経路に依らず出発点と到達点の位置だけで決まるとき,その力は**保存力**であるといわれる.
つまり,図のように2点A,Bを結ぶ任意の2経路をAPB,AQBとするとき
\begin{eqnarray}
\int_{APB} \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r} = \int_{AQB} \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}
\end{eqnarray}
であれば力$\boldsymbol{F}$は保存力ということになる.また,保存力が働いている空間内で任意の閉曲線$C$に沿って質点を一巡させる際に保存力のする仕事は0(ゼロ)である.このことを
\begin{equation}
\oint_C \boldsymbol{F} \cdot d\boldsymbol{r} =0
\end{equation}
のように記し,これは周回積分と呼ばれる.
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### ポテンシャルエネルギー:
##### 導入:
次に,どのような場合に線積分の値がその道すじに依存しないのかを考える.式(1)の関数は$U=-x^2y$という関数を考えると,2個の関数$F_x(x,y)$と$F_y(x,y)$は
\begin{equation}
F_x = -\frac{\partial U}{\partial x}\ , \ F_y = -\frac{\partial U}{\partial y} \tag{4}
\end{equation}
という形で,一つの関数$U$から導くことができる.なお,負号は力$\boldsymbol{F}$の方向が$U$の増大方向と反対向きになっていることを考慮してつけている.
##### 一般化:
つまり,式(4)の関係を満たす関数$U$が存在するときには,線積分の値が途中経路に依存せず,そのような関数が存在しないとき積分の値は途中の道すじに依存すると考えられる.そこで,力$\boldsymbol{F}$がある関数$U(x,y,z)$から
\begin{equation}
F_x = -\frac{\partial U}{\partial x}\ , \ F_y = -\frac{\partial U}{\partial y}\ , \ \ F_y = -\frac{\partial U}{\partial z} \tag{4}
\end{equation}
という偏微分によって導かれるものと仮定する.そのとき仕事$W$は式(1)より,
\begin{eqnarray}
W &=& -\int_{A,C}^B \left(\frac{\partial U}{\partial x}dx+\frac{\partial U}{\partial y}dy + \frac{\partial U}{\partial z}dz\right) \\
&=& -\int_{A,C}^B dU(x,y,z) \tag{5}
\end{eqnarray}
と全微分で表される.
この積分を道すじ$C$を細かく分割したものの和とみなし,$\boldsymbol{r}_i$を曲線$C$上の質点の位置とすれば
\begin{eqnarray}
\int_{A,C}^B dU(x,y,z) &=& \left[U(\boldsymbol{r}_n=\boldsymbol{r}_B)-U(\boldsymbol{r}_{n-1})\right]+\left[U(\boldsymbol{r}_{n-1})-U(\boldsymbol{r}_{n-2})\right] \\
&+& \dots +\left[U(\boldsymbol{r}_{2})-U(\boldsymbol{r}_1=\boldsymbol{r}_A)\right] \\
&=& U(\boldsymbol{r}_B)-U(\boldsymbol{r}_A) \tag{6}
\end{eqnarray}
である.このように,曲線$C$上の途中の$U$は互いに打ち消しあい,全体の積分値は初めの質点の位置$\boldsymbol{r}_A$と終わりの位置$\boldsymbol{r}_B$における$U$の値だけで決定される.
つまり,力$\boldsymbol{F}$が式(4)fの形で表せるとき,その力のする仕事$W$は途中の道すじのとり方に関係なく,その両端における$U$の値だけで決まる.すなわち,このとき
\begin{equation}
W = U(\boldsymbol{r}_A) - U(\boldsymbol{r}_B) \tag{7}
\end{equation}
となる[^1].なお,偏微分がそれぞれの方向($x,y,z$)への関数$U$の勾配(gradient)を与えることから
\begin{equation}
\mathrm{grad} \ U = \left(\frac{\partial U}{\partial x}\ , \ \frac{\partial U}{\partial y}\ , \ \ \frac{\partial U}{\partial z}\right)
\end{equation}
を用いて,式(4)を
\begin{equation}
\boldsymbol{F} = -\mathrm{grad} \ U
\end{equation}
と書き[^2],$U$をポテンシャルエネルギーという.これは,保存力の場で質点がある位置$\boldsymbol{r}_A$にいるだけで他に仕事をする能力$V(\boldsymbol{r}_A)$を潜在的に持っていることである[^3].
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### 力学的エネルギーの保存則
ここで,質点$m$に外から$W$の仕事をする
と,その質点は,運動エネルギー$T(t)=\frac{mv^2(t)}{2}$の増大を持って応える,すなわちそれは
\begin{equation}
T(t_A)-T(t_B) = W \tag{8}
\end{equation}
という関係式で表された.
さてここで,式(7)を式(8)に代入すると
\begin{equation}
T(t_A)+U(\boldsymbol{r}(t_B))= U(\boldsymbol{r}(t_A)) +T(t_B) \tag{8}
\end{equation}
が得られる.ただし,$\boldsymbol{r}_A=\boldsymbol{r}(t_A)$,$\boldsymbol{r}_B=\boldsymbol{r}(t_B)$とした.これは,質点のもつ運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和が,時間が経っても一定不変の値を力学の考え方 (物理の考え方 1)保持することを示している.このことを**力学的エネルギーの保存則**という.
また,時刻$t_A$では$T(t_A)=0$であり,時刻$t_B$では$U(\boldsymbol{r}_B)=0$であるとすると,式(8)は
\begin{equation}
T(t_B) = U(\boldsymbol{r}_A)
\end{equation}
となる.これは,初め$A$点で静止していた質点が$B$点まで移動すると運動エネルギー$T(t_B)$を獲得し,$B$点に到達した質点は他に仕事をする能力を得たことになる.そこで,この能力は質点が$\boldsymbol{r}_A$にいた時にもともと$V(\boldsymbol{r}_A)$という形で潜在的に持っていた能力であると解釈でき,その潜在的エネルギーのことを一般にポテンシャルエネルギーや位置エネルギーなどという.
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## 参考文献
[藤原邦男.物理学序論としての力学.東京大学出版会,1984](https://www.amazon.co.jp/dp/4130620711/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_t67aGb6S2HYB6)
[砂川重信.力学の考え方 (物理の考え方 1).岩波書店,1993](https://www.amazon.co.jp/dp/4000078917/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_K87aGbX2Y9X76)
[^1]:式(5)と式(6)の符号に注意.
[^2]:ナブラ演算子$\nabla$が用いられることもある.
[^3]:次節で詳しく説明されているのでこの一文が理解できなくても読み進めていただきたい.