# 英単語の世界 寺澤 盾 ## 隠喩 / メタファー (metaphor) >前章で見たように、もともと「手」を指す語であった hand は、「バナナの房」という意味も派生させていますが、「手」から「バナナの房」への転用は両者の形状の類似に基づいていることは明らかです。こうした意味の転用は、「手」で「バナナの房」を喩えているという点で、「**隠喩**」または「**メタファー**」(**metaphor**)と呼ぶことができます。 > >メタファーというと、一般には詩の言葉に見られる技法であると考えられていることが多いのではないでしょうか。 > >しかし、メタファーは詩の言葉に限られる現象ではありません。日常の語彙をよく見てみると、foot of a mountain(山の足 → 山のふもと)、He's very dim([彼は]薄暗い → 間抜けだ)、to grasp the concept([その概念を]つかむ → 理解する)など、ある物事を別の物事に喩えるメタファーが偏在していることがわかります。こうした隠喩表現はもはやメタファーと意識されないで用いられているので、「**死んだメタファー**」(**dead metaphor**)とも呼ばれます。ただ日常的な隠喩については、指摘されればそれがメタファーであることに多くの人は気づくでしょうから、「死んだメタファー」と呼ぶよりは「眠っているメタファー」(sleeping or dormant metaphor)と呼ぶほうがよりふさわしいかもしれません。いずれにしても**日常語にメタファーがありふれているということは、私たちが物事を認知するときにメタファーが欠かせないものであることも示していると言えます。**(pp.20-21) **mouse(ネズミ → コンピュータのマウス)のように、類似性に基づく意味の転用。文学に特有の修辞的技巧と考えられてきたが、実は日常言語に偏在し、私たちが未知のものや抽象的なものを認知する際に重要な役割を果たす。**(p.190) ## 換喩 / メトニミー(metonymy) >すでに見たように、「手」を意味していた hand が「バナナの房」という別の意味を獲得した場合、両者の形状の類似性に基づいて意味の変化がおこっています。それに対して、「手」を意味していた hand が「筆跡」の意味で用いられるときには、「手」から「筆跡」への転用は、文字を書いているとき書いている文字(筆跡)が空間的に近接していることによります。あるものを表すのにそれと密接な関係にあるものを置き換えることを「**換喩**」または「**メトニミー**」(**metonymy**)と呼びます。メタファーと同様、メトニミーに基づく意味の転用は日常的に広く見られます。 > >>The ***kettle*** is boiling. ヤカンが煮えくり返っている。 > >「沸騰している」のはヤカンではなくお湯ですが、前者は後者の入った容器なのでこうした転用がおこっています。 > >>The ***suits*** on Wall Street walked off with most of our savings. ウォール街(ニューヨーク市マンハッタンにある米国金融の中心地)のスーツ族が私たちの預金のほとんどを持ち去った。 > >「スーツ」が「スーツを着た重役たち」を表していますが、メトニミーは必ずしも単なる省略表現ではありません。あえて人には言及せずに「スーツ」という簡潔な表現を使うことによって、金融業界のエリートたちの人間性を欠いた行為が強調されているように感じられないでしょうか。 > >**メトニミーによる転用は、2つの要素が必ずしも空間的に近接していなくてもおこります。** > >>The ***pen*** is mightier than the ***sword***. >>ペンは剣よりも強し。 > >この文は、イギリスの政治家・小説家エドワード・ブルワー=リットン(Edward Bulwer-Lytton, 1803-73)の戯曲『リシュリュー』(*Richelieu; Or the Conspiracy*)に登場する文句ですが、「ペン」と「言論」、「刀」と「武力」は一方が他方の象徴となりうる点でやはり関係が深いと言えます。つまり、メトニミーの関係にある2つの事柄は、密接に関連し合っており、そのため一方に言及することで他方を表すことができるのです。(pp.48-51) **bathroom(浴室→トイレ)のように、あるものを表すのにそれと近接していたりするなど密接な関係にあるものに置き換えること。メタファーと同様に、メトニミーは単なる修辞技巧ではなく、日常言語に広く見られる。**(p.191) ## 提喩 / シネクドキ(synecdoche) >メトニミーのパターンとして、ほかによく見られるものとしては、hand(手 → 労働者)や(赤帽子 → 赤帽子をかぶっている人、ポーター)のように「部分」で「全体」を表すもの、その逆に creature(創造物 → 創造物の一部である人間)のように「全体」で「部分」を表すものがあります。 > >「部分」と「全体」に関わるメトニミーと似たものとして、daily bread(日々の糧)のように「パン」という種(下位概念)で「糧・食べ物」という類(上位概念)を表すものが挙げられます。日本語の「小町」(小町という特定の美人 → 美人)も種でもって類を表しています。 > >一方、England lost the match. という文では、類である England(英国)が「英国の(サッカーの)チーム」という種を表しています。同様に、Don't Drink and Drive.(飲んだら乗るな)という交通標語では、本来は「飲料一般を飲む」を意味する drink が「アルコールを飲む」を意味しています。日本語の「花見」の「花」も「桜」という種を表しています。「部分」と「全体」、「種」と「類」の間の転用は、「**提喩**」または「**シネクドキ**」(**synecdoche**)と呼ばれることもあります。ただし、**「部分」と「全体」の間の転用は(他のメトニミーと同様に)現実世界における近接関係に対して、「種」と「類」の間の転用は意味関係における包含関係に基づくため**、両者を区別して後者だけにシネクドキという用語をあてることもあります。(pp.58-59) **face(顔 → 人)のような〈部分〉と〈全体〉の間の転用、bread(パン → 糧)のような〈種〉と〈類〉の間の転用を指す。ただし、後者だけにシネクドキという用語を当てることもある。提喩とも呼ばれる。**(pp.185)
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